トレーニングの前後のストレッチは多くのトレーニーが行っています。
そんな中、『トレーニングの前や、している最中には静的ストレッチはダメだ』という話は聞いたことがありませんか?確かに、いくつかの研究はその論を裏付けているようです。ストレッチはトレーニング中にしない方が良い、というのがメジャーな考え方になりつつあるようです。
しかし、この記事では、筋トレ中の静的ストレッチの有用性に重点をおいて話を進めていきたいと思います。
セット間の静的ストレッチは筋力・筋肥大に悪影響?
研究の中には、静的ストレッチを行うグループとしないグループを比較したものがあります。
2012年に行われた研究では、30人の一年以上トレーニング経験があるボランティアを対象に、週に4セッションのトレーニングを10週間続ける実験を行いました。被験者たちはランダムに
- トレーニング前にストレッチをするグループ
- トレーニングのセット間に静的ストレッチをするグループ
- ストレッチを全く行わないグループ
の3つのグループに分けられ、トレーニングの前後にIGF-1(インスリン様成長因子-1、細胞成長に必要な成長ホルモン)の数値の摂取が行われました。トレーニングは、ベンチプレス、ラットプルダウン、レッグエクステンション、レッグカールの四種目が8RM(8回ギリギリでできる重量)で行われました。
結果、1、2、の群のIGF-1の値に対して、3の群の値が高い結果になりました。
また、扱う重量に関しても、ストレッチをする二つの群はラットプルダウンとレッグエクステンション(筋トレ前群のみ)しか大きな上昇が見られなかったのに対して、ストレッチをしていない群は全ての種目において大きな上昇を示しました。
また、2017年に行われた研究では、10週間の実験期間に、参加者を筋トレ前のストレッチ有と無の二つのグループに分けてレッグエクステンションを行わせました。
結果、ストレッチ有グループよりも、ストレッチ無グループの方が筋断面積の増加が大きく(7.4%と12.7%)、回数の伸びとトレーニング全体のボリュームの増加も同じように、無群のほうが大きかったようです。
他にも同じように筋量や筋力の上昇に関する研究はいくつか発表されているようです。確かに、最初の研究は特に良いもので、説得力のあるものです。しかし、それには反対意見もあります。
一時的なホルモンの分泌は筋肥大や筋力に関係無し
2012年に公表された研究では、56人の参加者を対象に、トレーニングによって分泌された成長ホルモン、テストステロン、IGF-1、コルチゾールの値を計測し、筋力と除脂肪体重との関係を12週間調べました。
結果、除脂肪体重の変化とトレーニングによって分泌されたテストステロンとIGF-1の間には、何の関係もない事が明らかになりました。また、成長ホルモンとコルチゾールの間にも弱い関係しかないことが判明しています。
また、これらのホルモンは筋力の変化にも影響が全くない事を示しています。
更に、この研究は2013年に再調査されており、同様の研究結果が報告されており、非常に有用な研究結果だと考えられます。少なくとも、IGF-1や他のホルモンがトレーニングの前後で増加しても低下しても、筋肥大にはあまり影響がないと考えても良いと思います。
最新の研究結果では筋肥大に効果的か
本当に静的ストレッチは筋肉に良くないのか?というと、結論を出すのはまだ早いようです。
今年(2019年)の1月という、ごく最近に公表された研究によると、セット間のストレッチは筋肥大に良い影響を与える事が示唆されています。
29人の被験者は二つのグループ(セット間に静的ストレッチをするグループ/しないグループ)に分けられ、8週間に渡ってベンチプレス、トライセプスエクステンション、シーテッドロウ、バイセップカール、レッグエクステンション、レッグカールの6種目を8-12RM×4セットの強度・回数で行いました。
トレーニングは週に2回行われました。また、ストレッチはセット間に30秒1セットを、対象の筋肉群に対して行いました。
結果、セット間にストレッチを行ったグループの方が、1. 上腕二頭筋、2. 上腕三頭筋、3. 大腿直筋(脚)、4. 外側広筋(脚)の4つの筋肉群において、ストレッチをしていないグループよりも50%程度の筋量の上昇が見られたました。
実際の統計上では、外側広筋の値の上昇値が大きく、対して腕の筋肉に関しては非常に大きな増加があったわけではありませんでした。
それでも、二か月間という短い期間の中でこれだけの増加が認められているのは注目するべき点だと思います。
この研究の欠点は、トレーニングをしていない人を対象にして実験を行った、という事です。つまり、この研究は普段からトレーニングをしている人には必ずしも応用できないということですね。
拮抗筋のストレッチで筋力上昇
もう一つ静的ストレッチを行うことで有用な結果が得られているのは、2015年に行われた拮抗筋のストレッチと筋力回復・向上の研究です。
*拮抗筋…トレーニングしている対象の部位の反対側にある筋肉。背中の筋肉 なら大胸筋、上腕二頭筋なら上腕三頭筋という感じ。
研究では、10名のトレーニングをしている被験者は、シーテッドロウを行いました。二分のセット間に、拮抗筋である大胸筋の静的ストレッチを行うグループと行わないグループの二つに分けられ、シーテッドロウを行いました。
結果としては、静的ストレッチを行ったグループの方がより多い回数でトレーニングができ、また広背筋と上腕二頭筋の活動もより高い事が発見されました。よって、セット間の拮抗筋の静的ストレッチは対象の筋肉のより速い回復が望めると結論付けています。
対象の部位ではなく、拮抗筋をストレッチする、というのは面白い発想ですね。しかし、研究対象が10名という少ない数ですから、更なる研究が無ければ、確実とは言えません。
実行してみた結果
だけど結局どうすればいいのかわからない、というのが正直なところです。メリットにもなり得るし、デメリットにもなり得る、とは言え、言葉では何とでも言えます。ですから、今回は自分で試してみました。
・部位:胸
・種目:ダンベルベンチプレス 6-8reps×4sets
ダンベルフライ 10-12reps×4sets
インクラインダンベルフライ8-12reps×4sets +ドロップセット×2
プルオーバー 8-12reps×4sets
ペックデック (片方ずつ) 6-6-6-6×2sets
・レスト:3分
・静的ストレッチ:全ての種目のセット間に大胸筋のストレッチ30秒間と、背筋(拮抗筋)のストレッチを30秒間。
・結果:いつも以上にパンプ感が強かったように感じた。筋力に関してはあまり変わった感じはしなかった。可動域が広がったように思った。
今回は胸のトレーニングだけの試行となりましたが、これだけでも十分に効果はあった気がします。胸のトレーニングはパンプが比較的感じやすい部位だと思いますが、ストレッチを取り入れたことによって胸の血流量が多くなったのだと思います。更に、肩関節がほぐされ、可動域が広がった事が要因となって、トレーニングの動作範囲が広くなり、より胸への刺激が大きくなった事も血流量の増加に繋がっていると考えられます。
筋力向上へのデメリットがある可能性を考えると、重い重量を扱う日やルーティーンには組み込まない方が良いでしょう。パンプ重視や高回数狙いの日にたまに取り入れてみると、違った刺激が入って筋肉の反応も良くなることが期待できるでしょう。
まとめ
筋トレにおける静的ストレッチに関して話してきましたが、ご理解いただけたでしょうか。要点をまとめると…
- 筋トレの前、セット間に静的ストレッチをすると筋肥大を促進させる可能性がある。
- セット間に拮抗筋をストレッチすると、筋力・筋持久力の向上が見込める。
- 一時的なホルモンの分泌は筋肥大に影響しない。
- 筋力向上を抑制する可能性がある。
- 多くの研究が確定的でないため、試しに行ってみるのが良い。
何事も物は試しです。特に、筋肥大に関しては期待がもてるので、時々筋肉を静的ストレッチで伸ばしてやるとよいでしょう。その際に関節の伸びも意識しても良いと思います。
因みに、セット間のストレッチはボディビルダーのジェイ・カトラーや、山岸秀匡選手も取り入れています。何よりも体が証拠になる方々ですから、参考にしてみる価値はあるでしょう。
では、また。
参考文献
- AL, Evangelist., et al. (2019). Interset Stretching vs. Traditional Strength Training: Effects on Muscle Strength and Size in Untrained Individuals. Journal of Strength and Conditioning Research.
- Bastos, Borges., et al. (2013).Chronic Effect of Static Stretching on Strength Performance and and Basal Serum IGF-1 Levels. The Journal of Strength & Conditioning Research. 27(9), 2465-2472.
- Humbert, Miranda., et al. (2015). Acute Effects of Antagonist Static Stretching in the Inter-Set Rest Period on Repetition Performance and Muscle Activation. Research in Sports Medicine. 37-50.
- Acute effects of muscle stretching on physical performance, range of motion, and injury incidence in healthy active individuals: a systematic review. https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/26642915 Changes may result from acute reductions in muscle and tendon stiffness or from neural adaptations causing an improved stretch tolerance
- RM, Junior., rt al. (2017). JuniorEffect of the flexibility training performed immediately before resistance training on muscle hypertrophy, maximum strength and flexibility. European Journal of Applied Physiology. 117(4), 767-774.
- West, Daniel., et al. (2012). Associations of exercise-induced hormone profiles and gains in strength and hypertrophy in a large cohort after weight training. European Journal of Applied Physiology. 112(7), 2693-2702.
- West, Daniel., et al. (2013). Resistance exercise order does not determine postexercise delivery of testosterone, growth hormone, and IGF-1 to skeletal muscle. Applied Physiology of Nutrition and Nutrition. 38(2), 220-226.