『トレーニング後にはホエイプロテインと吸収の速い糖質を一緒に摂ってインスリンを分泌させよう!』

『筋肉のグリコーゲンが枯渇しているから早く糖質を摂取して回復させよう!』

などの触れ込みを非常に多くのところで目にし、耳にし、トレーニング後の糖質は大事なんだろうな、と思っている人も多いでしょう。僕もそう思って、ブドウ糖やマルトデキストリンを大量に購入していた時期がありました。

しかし実際のところはどうなのでしょうか?研究と一緒に見ていきましょう。

筋トレ後にプロテインと一緒に糖質を摂る必要は無い

運動後にプロテインと糖質を摂る必要はありません。

結論から言ってしまうと、トレーニング後にプロテインと一緒に吸収の速い糖質を摂取する必要はない可能性があります。プロテインを飲んでいるだけで十分だということですね。

何故なのかを説明する前に、インスリンとグリコーゲンという言葉について、「聞いたことあるけど結局何なの?」

という人もいると思うので、簡単に説明をします。

インスリンとは?

インスリンは、機能性タンパク質の一種で、タンパク質か炭水化物を食べた時に膵臓で生成・放出されるものです。

機能性タンパク質は、普段食事から摂って筋肉の材料として使われるタンパク質とは違い、成長ホルモンのような働きをします。インスリンはアミノ酸の鎖で繋がっていますが、その繋がりは体の中で伝達機構としての役割を果たします。

膵臓から生成された後は、インスリンは血流を通って体をめぐり、筋肉のインスリン受容体と呼ばれるところに結合します。そうすることで、筋肉にグルコースやアミノ酸、クレアチン等必要な栄養素を取り込むための門を開けるように促すのです。

インスリンの筋肉に対しての主な働きは、栄養素をしっかり吸収できるように助ける、という事ですね。

基本的に食べ物を食べて血糖値を上げる事で、インスリンは分泌されます。血糖値の上昇が高ければ高いほど、インスリンの分泌率も高くなります。

血糖値の上昇度合いを数字で表したものが、グリセミック指数(GI値)とよばれるもので、ブドウ糖やでんぷん質のものはこの指数が高い傾向にあります。ですから、筋トレ後には吸収の速いブドウ糖やマルトデキストリンが好まれるのです。

このインスリンをトレーニング後に効率的に放出することができれば、タンパク質の合成効率も高まる、という事になっています。

グリコーゲンとは?

グリコーゲンは、体に貯蓄されている多糖類の事です。人体では肝臓と筋肉中にグルコースの高分子体の形で留まっており、トレーニングを行っている時のように、急にグルコースが必要になった時にすぐにエネルギーに変換されます

グリコーゲンは肝臓と筋肉に貯蓄されていますが、筋繊維内のグリコーゲン濃度が1%~2%であるのに対し、肝臓内の濃度は8%~10%と、肝臓の方がより多くグリコーゲンを蓄える事ができます。

トレーニング後に素早く糖質を摂るのは、筋肉内のグリコーゲンを補給するため、という理由からだと言われています。

プロテインは十分な量のインスリンを分泌させる

炭水化物を摂ってインスリンを上げる必要はありません。

さて、先ほどトレーニング後にインスリンを放出させるとタンパク質の合成効率が高まる、という話をしましたが、多くのトレーニーの方はプロテインを摂取していると思います。実は、そのプロテインだけでインスリンは上昇するため、糖質は必要ないのです。

研究によって報告されているところでは、ホエイプロテインは血中のロイシン、イソロイシン、バリン(BCAA)のレベルを上昇させますが、同時にグルコース依存性インスリン分泌刺激ポリペプチド(GIP)と、グルカゴン様ペプチド1(GLP-1)と呼ばれるホルモンも上昇させる効果がある事を報告しています[1]。難しい単語がでてきましたが、要はプロテインはインスリンの値を向上させますよ、という事です。

大事なのは、研究では炭水化物であるパンやグルコース単体よりもホエイプロテインには大きなインスリンスパイク(インスリン分泌)が見られたという事です。

グルコースや炭水化物よりもプロテインの方がインスリン濃度を高くします。
【図1】縦軸がインスリン上昇、横軸が時間経過です。The figure from BMC

この研究では、ホエイプロテイン(【図1】灰色のバー)、パン(炭水化物群、白色のバー)、そしてグルコース単体(黒色のバー)それぞれの摂取後を調べ、ホエイプロテインが一番高いインスリンスパイクを引き起こしたことを発見しています。

この研究結果は更に後に行われた研究で立証されており、単純にプロテインをサプリメントとして摂取することで、非常に高いレベルのインスリンが放出されることの確証を得る事も出来ています。

余談ですが、ホエイプロテインとカゼインプロテインとの比較実験も行われていますが、ホエイプロテインのインスリン上昇の方が高くなっている事が分かります【図2】。ミルクプロテイン、と呼ばれるものは、カゼインとホエイのブレンドによってインスリンの上昇を抑えたものです。[2]

カゼインとホエイでは圧倒的に短時間でホエイがインスリンを分泌させています。
【図2】Whey(ホエイ)とCasein(カゼイン)では圧倒的にホエイが高いです。The figure from American Journal of Physiology

筋トレ後すぐにグリコーゲンを補給する必要は無い

グリコーゲン補給にデキストリンを摂取する必要はあるのでしょうか

次のポイントですが、筋力トレーニングの後にすぐにグリコーゲンを摂取することは、特別には必要ではありません。

確かに、持久トレーニングにおいて、運動の後すぐに炭水化物をとってやると、グリコーゲンのレベルが素早く回復するという結果が研究では出ています[4]。しかし、一日に二回以上トレーニングを行うスーパーハードトレーニーでない限り、筋グリコーゲンをそれほど速く回復させるメリットはありません。

更には、ある研究ではトレーニング後に炭水化物を摂取したグループと水のグループを比較したところ、前者のグループは立った16%しか筋グリコーゲンの回復率が高くなかったという結果を報告しています[5]。

糖質の制限をしているダイエット等を行っている場合はすぐに筋グリコーゲンの確保をした方が良いため、トレーニング後にグリコーゲンの摂取をするメリットもあるかもしれませんが、普段から炭水化物を十分に摂取していれば筋グリコーゲンの補充は十分にできます

また、吸収の速い炭水化物を摂取するならトレーニング中にすることを薦めます。研究によってパフォーマンスの向上、筋分解抑制等の効果が報告されています[6]。

ただ、炭水化物を摂取していない状態でトレーニングを行う場合か、減量・ダイエット中の場合でないと効果は感じにくいかもしれません。炭水化物を十分にとっていて、筋グリコーゲンが十分に補充されていればトレーニング中でも不必要かもしれないです。

僕の場合は、朝4時頃からトレーニングを始める日が多いため、プロテインだけを朝に摂取して、トレーニング中にはBCAA・EAAとブドウ糖、もしくはデキストリンのような炭水化物のサプリメントを混ぜて筋トレを行う、といった感じです。

朝にブドウ糖を摂ると体にエネルギーが満ち、トレーニングに集中できるのを感じるので、個人的にかなり朝のトレーニングルーティーンは好きです。大量買いして余っていたブドウ糖が役に立っています。

まとめ

この記事で書いたことが全てというわけではありません。しかし、プロテインだけを摂っていれば、後はトレーニングをしっかり行い日々の食事を気を付けているだけで、筋トレ後の糖質は必要なくなってくるかもしれません。炭水化物をトレーニング中に摂取する場合でも、ハードなトレーニングでしっかりと追い込まないと意味もなくなります。

グリコーゲンとインスリンについて詳しくは後の記事で更新しますが、正しい理解に基づいて、それぞれをコントロールできるようにしましょう。

参考文献

  1. The insulinogenic effect of whey protein is partially mediated by a direct effect of amino acids and GIP on β-cells. Nutrition & Metabolism. 
  2. Glucagon and insulin responses after ingestion of different amounts of intact and hydrolysed proteins. British Journal of Nutrition. 
  3. Whey and casein labeled with l-[1-13C]leucine and muscle protein synthesis: effect of resistance exercise and protein ingestion. American Journal of Physiology, Endocrinology and Metabolism. 
  4. Muscle glycogen synthesis after exercise: effect of time of carbohydrate ingestion. Journal of Applied Physiology.
  5. Glycogen resynthesis in skeletal muscle following resistive exercise. Medicine and Science in Sports and Exercise. 
  6. A systematic review and meta-analysis of carbohydrate benefits associated with randomized controlled competition-based performance trials. Journal of International Society of Sport Nutrition.