アディポカインと呼ばれる脂肪組織から分泌されるホルモンは、栄養の代謝に関連しています。アディポカインの中でも糖と脂質の代謝に関係しているアディポネクチンとレプチンは、これまでの研究で筋肉の機能や筋肉のサイズに影響を与える要素として考えられています。

今年新しく公表された研究では、10代〜20代の若い女性を研究対象として、アディポネクチン・レプチンと筋肉のサイズ・質の関係性を調査しています。

結果として、アディポネクチンとインスリンは筋肉の機能、筋肉のサイズ、筋肉の質いずれにも影響を及ぼさないことが示唆されています。研究対象が21名と限られていますが、これらのアディポカインと筋機能との間に相関関係が無いエビデンスの1つになる可能性があります。

アディポネクチンとインスリン

アディポネクチンとレプチンは共に脂肪細胞から分泌されるホルモンで、糖質・脂質の代謝に関与することで知られています。レプチンは「満腹ホルモン」「食欲抑制ホルモン」とも言われ、分泌されることで脳に信号を送ることで食欲を抑える役割も担っています。

これら2つのホルモンは、筋肉での糖利用と遊離脂肪酸の利用を促進させることでインスリン感受性を改善します。

ある研究では、肥満患者は肥満でない患者よりもアディポネクチンのレベルが低く、筋力が弱いことが示されています。また、中年女性におけるアディポカインと肉体機能の相関性も調査されており、アディポカインが特定の年齢層の筋力や身体機能に影響を与えることは証明されています。

アディポカインがどの程度筋肉に影響を与えるかは、年齢・性別・代謝異常(肥満や糖尿病など)の要素が関連するため、更なる研究が必要とされています。

若い女性を対象とした研究

今回公表された研究は、2種類の超音波スキャンを利用し、19~20歳の女性のアディポネクチン・レプチンレベルと筋肉量・脂肪量・筋力・筋肉パフォーマンスを調査しています。

アディポネクチンとレプチンのレベルは血液検査によって調査されています。他に中性脂肪・遊離脂肪酸・インスリン様成長因子-1(IGF-1)も同様に血液検査で調べられています。

筋肉量と脂肪量はエコーを用いて、筋力・パフォーマンスは脚・ふくらはぎの筋力を測定することによって、それぞれ調査されています。

結果として、アディポネクチン・レプチンと筋肉量や筋力の間に相関性は認められず、健康な若い女性に影響を及ぼさないことが示唆されています。

他の研究が示すところによれば、筋細胞における脂肪組織の量が多いほど筋力の低下やインスリン感受性の低下が見られています。

また、研究対象が中年から高齢者であることから、肥満や糖尿病、インスリン抵抗性など代謝異常のある場合にアディポカインや体脂肪量が身体機能に影響を及ぼす可能性があります。

研究の二次産物として、IGF-1と筋力の相関性が見られたことが挙げられます。

IGF-1は成長ホルモンの分泌を促すホルモンで、筋肉の成長と回復を促す筋合成ホルモンとして注目されています。

IGF-1の血液レベルが高いほど大腿四頭筋の筋力のピークパフォーマンスが高いことが見られたことから、このホルモンが筋力に影響を及ぼす可能性を裏付けるエビデンスの1つになる可能性があります。

しかし、大腿四頭筋で見られたIGF-1との相関性は、ふくらはぎの筋肉には見られなかった他、筋肉のサイズ・筋肉量とは相関関係がみられなかったため、更なる研究が必要とされています。

結論

今回の研究は、若年の女性を対象としたアディポネクチンとレプチンの、筋肉量・筋力への影響を調査しています。結果として2つのホルモンと筋肉の間に相関性は見られず、影響があるのは代謝異常があるより高い年齢層であると結論づけています。また、IGF-1と大腿四頭筋のパフォーマンスの間に相関性も見られました。

Serum Adiponectin and Leptin Is Not Related to Skeletal Muscle Morphology and Function in Young Women. Journal of the Endocrine Society, 7(5), May 2023. https://doi.org/10.1210/jendso/bvad032