mTOR(エムトール)という物質を聞いたことがあるでしょうか?あまり聞きなれない単語ですが、実は筋肥大をするプロセスでは非常に重要となるタンパク質です。
今回の記事では、どのような働きをmTORが持っているのか、筋肉とトレーニングの観点から解説していきたいと思います。
- mTORは細胞の成長を阻害する働きを持つ
- 逆にmTORはリン酸化する事で筋肥大を促す効果がある
- mTORを阻害するトレーニング・生活方法
- mTORを刺激するサプリメント
mTOR(エムトール)の働きと筋肉・トレーニングとの関連性
mTORはマーマリアン・ターゲット・オブ・ラパマイシンの略語で、翻訳すると哺乳類ラパマイシン標的タンパク質、と訳されます。難しいですね。
そもそもTORという物質は、センチュウと呼ばれる虫に『ラパマイシン』と呼ばれる物質を投与したところ、センチュウの成長が止まってしまいました。その原因が、ラパマイシンによって発生が抑制されたタンパク質であり、そのタンパク質をTORと呼ぶことになったのです。
「ラパマイシンによって抑制されてしまうのがTOR」
その研究の後、哺乳類にもTORが存在することが判明し、マーマリアン(哺乳類)のTORという事で、mTOR、と名付けられたのです。
そのmTORが何故筋肥大に関係があるかというと:
・筋力トレーニングを行う事で、mTORがリン酸化される。
タンパク質がリン酸と結びつく(リン酸化)と、そのタンパク質は活性化し、逆にリン酸が離れると不活性化します。
mTORがリン酸化される、という事は、筋トレを行う事でラパマイシンによって抑制されるはずのmTORが活性化し、結果的に筋合成が促進されるという事です。
研究者たちの間では、mTORはタンパク質の合成の翻訳率が高まる、と説明されますが、要は筋肥大を促すという事です。
mTORを活性化させる方法
トレーニング方法
一つの方法として、エキセントリックトレーニングを行う事です。エキセントリックトレーニングは、負荷を下す時に力を入れる事で、筋収縮をより意識するトレーニング方法です。
あるマウスを用いた研究では、力を発揮させた状態で、ネガティブトレーニング(ゆっくりと動作するトレーニング)を行った場合には、mTORのリン酸化が進行した、という結果が出ています。
人間を対象とした研究ではないため確かな事は定かではありませんが、少なくとも、チーティング(反動を使ったリフティング)を過剰に行って筋収縮を意識できないと、mTORの活性化が損なわれてしまう可能性があるのです。
必ずしもネガティブばかりが良いわけではありませんが、筋肉の収縮を意識したトレーニングを取り入れる事は非常に重要です。
サプリメントと食品
ロイシンと他の必須アミノ酸は、mTORの信号回路を活性化することで、筋タンパク質の合成を刺激する事が複数の研究で示されています[1][2][3]。特にロイシンの摂取に関しては多くの研究で筋肥大に貢献にすることが報告されています。
研究では、BCAA(分岐鎖アミノ酸)をサプリメントとして摂取することでmTORを効果的に活性化させることができていたようです。
しかし、ロイシンを含め必須アミノ酸が豊富に含まれているサプリメント・食品の方が、普段の食事をする際には良いでしょう。
サプリメントから摂取するなら:
・ホエイプロテイン(いつでも)
・カゼインプロテイン(就寝前等)
・BCAA(トレーニング中)
・EAA(トレーニング中、トレーニング後)
食品から摂取するなら:
・卵
・レンズマメ
・牛肉
・サーモン
その他の成分(ポリフェノール)
・没食子酸エピガロカテキン:カテキン(コーヒー、緑茶)
・カフェイン(コーヒー、緑茶)
・テオブロミン(カカオ)
・レスベラトロール(ピーナッツ、ブドウ、カカオ)
・クルクミン
これらのポリフェノールと呼ばれる成分は元々植物に含まれているものであり、上記の例に挙げたように、普段から摂取できる食品から摂る事ができます。
クルクミンに関してはウコンが有名ですが、摂取をするならサプリメントが効率が良いでしょう。
反面、カテキンやカフェインなどは緑茶やコーヒーなど安価で日常的なものに含まれており、テオブロミン、レスベラトロールもカカオチョコレート等から摂取できます。案外、知らないうちにmTORを活性化しているかもしれませんよ。
mTORを刺激する成分として紹介しましたが、ポリフェノールには健康に対する多くのメリットがあるため、mTOR活性化だけではなく、老化防止や抗酸化作用、疾患予防の効能も期待できます。
また、サプリメントとして最近注目されつつあるホスファチジン酸も、mTORの活性化に関与している事で知られています。残念ながら、ホスファチジン酸単体でのサプリメントはまだ少ないですが、HMBやアミノ酸などとブレンドされているタイプからの摂取は可能です。
ホスファチジン酸に関しては、こちらの記事でより詳しく紹介しています。
まとめ
mTORに関しておさらいをしておきましょう。
・mTORは筋力トレーニングによって活性化される。
・筋収縮を意識したトレーニングが、mTORへの刺激効率が良い。
・ロイシンや他のアミノ酸、その他ポリフェノールによって活性化される。
最初に言ったように、mTORは筋肥大に関して重要な役割を持っているため、更なる研究が行われていくことになると考えられます。今日解説した事を少し意識してサプリメントを選んだり、トレーニングを行ってみることで、より良い身体づくりを目指せるかと思います。
では、また。
参考文献
- Role of Leucine in the Regulation of mTOR by Amino Acids: Revelations from Structure–Activity Studies. The Journal of Nutrition.
- The actions of exogenous leucine on mTOR signalling and amino acid transporters in human myotubes. BMC Physiology.
- Leucine-Enriched Nutrients and the Regulation of mTOR Signalling and Human Skeletal Muscle Protein Synthesis. Curr Opin Clin Nutr Metab Care .