ホスファチジン酸(Phosphatidic Acid、以下PA)は、日本ではあまり知られていない栄養素ですが、海外のフィットネス業界では次第に名が知られてきています。

『でも、実際ホスファチジン酸なんて聞いたこともないけど一体何なの?』という人が多いはずなので、基本的な働きと研究などを紹介しながら、筋肉にどんな効果があるのか、何から摂れば良いのかを見ていきましょう。

この記事のポイント
  • ホスファチジン酸はmTORに働きかけ筋合成を促す
  • ポジティブな研究結果は多い
  • 普段の食事からは殆ど摂れない
  • サプリメントから摂るべき

ホスファチジン酸は筋肉に効果的な栄養素

ホスファチジン酸は筋力トレーニングを行う人には有益です。

結論から書いてしまうと、ホスファチジン酸は筋肉を増やす可能性が高いです

…と言っても何で?となるので、ホスファチジン酸の体の中での働きから説明していきましょう。

ホスファチジン酸のmTORに対する働き

PAは、独自の働きをする脂質の分子です。PAの基本的な役割は一つです:

mTOR(哺乳類ラパマイシン標的タンパク質)の信号の調整

mTORって何?というのを簡単に説明すると、トレーニングをするとリン酸化され、筋肉の合成に重要となる複合体です。PAは、この筋肉の合成に直接かかわるmTOR信号回路のスイッチを「オン」の状態にする働きをするのです。

この働きから、多くの研究者が筋発達と筋力強化にPAが使えないか、と考えたのでした。

ホスファチジン酸における研究

PAを摂取する事への、実際の研究はどのような結果を出しているのでしょうか。

複数の研究で、PAの摂取は、単離した筋細胞の中のmTORへの信号量を増やした、という結果が得られています。

また、ラットを対象にした研究ではPAとホエイプロテインの摂取によって、筋合成の働きが高まった事を示しています。しかし、この研究ではホエイプロテインが同時に摂取されており、PAの働きがあまりはっきりしていません。

実は、人間を対象にしたmTORとPAの研究は、まだ成されていません。人体でPAがmTORを増やすかどうか、そして筋繊維に吸収されて筋合成を促すか、といったことは、科学的研究ではまだ明確に分かっていないのです。

トレーニングへの活用

しかし、トレーニーを対象にした、パフォーマンスと筋量に関する研究は現在5つほどあります。要点をまとめて挙げると…

1.2012年の研究では16人のトレーニーを対象として、750㎎のPAの摂取させたところ、8週間で筋肥大・筋力の向上が見られた[1]。

2.28人のトレーニーを対象に、750㎎のPAを摂取させたところ、8週間でレッグプレスの重量と脚の筋量が増加していた。同様に、脂肪の燃焼も促進されたことが判明している[2]。

3.同じような設定で行われた研究で、筋肥大と筋力向上が確認されたが、ロイシンやHMB、ビタミンD3といったサプリメントを同時に摂取していたため、PAの効果は不明確[3]。

4.摂取量を250㎎と375㎎で実験をしたところ、筋力と筋量に変化は殆ど見られなかった。しかし、統計的な方法で計測した場合には、筋力と筋量に増加が見られた[4]。

5.最新の研究では、15人のトレーニーを対象とし、PAを750㎎摂取させたが、統制群と比較して特に変化は無かった[6]。

結局効果はあるのか?

非常に多くの研究結果で、PAはmTORの信号回路と筋肥大に関与している事が明らかにされている反面、人間を対象にした研究結果は限られたものになっています。

実際、一つの研究でしか、PAの摂取による筋量・筋力の大きな向上へと繋がっていない事が分かります。単純に、レシチンやコリンといった、PAの合成に必要なリン脂質を含むサプリメントから摂る方が効果的であるという意見もあります。

しかし、長期間行われた研究が無く、3か月以上の長期的な効果としては期待が持てるかもしれないという事が言えます。

今の段階では、他の栄養素と一緒にサプリメントに入っている事が多いので、そのようなサプリメントを摂る事が推奨されます。

食事から摂取できる?

PAは、食事からの摂取は一応のところ可能のようですが、本当に少ししか含まれていないようです。

キャベツ等の野菜に多く含まれている事が判明していますが、1g中にたった0.5mgです[7]。

これでは、100g摂ったとしてもたったの50㎎ですから、研究で投与に使われていた250-750㎎を実感するには程遠い事がわかります。

摂取はサプリメントから

摂取するならサプリメントからにしましょう。

摂取を考えるなら、サプリメントから。

ということで、一番効率的に摂取するのであれば、サプリメントを摂るのが一番でしょう。

推奨摂取量は、今の時点では750㎎で、トレーニング前後に450、300といったように分割して摂取するのが良いようです。また、トレーニングが休みの日であれば、朝に一回、夜に一回と分けるのが良いでしょう。

まとめ

結論として記事の内容をまとめておきます。

  1. ホスファチジン酸(PA)は、筋合成に関わるmTORのリン酸化の向上に関わっている。
  2. 研究ではポジティブな結果が多いが、まだ研究が少ない。
  3. 摂取はサプリメントから摂るのが良い。

まだフィットネス業界では比較的新しい栄養素であるホスファチジン酸ですが、僕個人としては、試す価値はあるように思います。少なくとも、筋量・筋力増加の研究も公表されているため、自分の体で実験して体に合うかどうか、トレーニングに効果的かどうかを確かめても良いのではないかと思います。

では、また。

参考文献

  1. Efficacy of phosphatidic acid ingestion on lean body mass, muscle thickness and strength gains in resistance-trained men. Journal of the International Society of Sports Nutrition.
  2. Phosphatidic acid enhances mTOR signaling and resistance exercise induced hypertrophy. Nutrition & Metabolism.
  3. Modulation of the Mammalian Target of Rapamycin Pathway by Diacylglycerol Kinase-produced Phosphatidic Acid. Journal of Biological Chemistry.
  4. The effects of phosphatidic acid supplementation on strength, body composition, muscular endurance, power, agility, and vertical jump in resistance trained men. Journal of the International Society of Sports Nutrition.
  5. Eight Weeks of Phosphatidic Acid Supplementation in Conjunction with Resistance Training Does Not Differentially Affect Body Composition and Muscle Strength in Resistance-Trained Men. Journal of Sports Science & Medicine. 
  6. Effects of phosphatidic acid supplementation on muscle thickness and strength in resistance-trained men. Applied Physiology, Nutrition, and Metabolism.
  7. Quantification of Phosphatidic Acid in Foodstuffs Using a Thin-Layer-Chromatography-Imaging Technique. Journal of Agricultural and Food Chemistry.