メリーランド州のジョンズホプキンズ大学・Bloomberg School of Public Healthからの研究では、低所得・中所得国において、十分な量の健康的な食事を提供するには、食糧生産のために温室効果ガスの排出量と水利用の顕著な増加が必要である事が示されています。

食糧難への対策には二酸化炭素排出量増加を免れない

貧困・飢餓

肥満、栄養失調、気候変動は、世界中の人口に影響を及ぼしている三大問題であり、それぞれの問題は関連していないように見えても、食糧生産・消費という根本的要因を同じものとして抱えています。

今回行われた研究は、気候変動における食糧生産の果たす役割を認識する事で、個人水準・国水準の両方の飢餓・気候変動への対策を同時に講ずる挑戦性を調査しました。

研究者は、140カ国における個人水準・国水準それぞれにおいて、食事を変えることによる温室効果ガスと淡水利用への影響を評価するモデルを開発しました。

このモデルを使用することで、9種類の植物ベースの食事の一人当たりの二酸化炭素排出量と水利用(個人水準)と、国全体のもの(国水準)とを調査しました。

研究で使われた植物ベースの食事は、赤肉無しの食事、魚有りベジタリアン食、乳製品・卵有りベジタリアン食、ベジタリアン食等から構成されています。

重要な研究結果として、食物連鎖の下位に位置する動物性タンパク質(小魚、軟体動物等)を含む食事の環境への影響は、ベジタリアン食と変わらないほど低いものであった事が判明しています。

また、動物性食品を3分の2まで減らした植物ベースの食事は、伝統的な乳製品・卵を含むベジタリアン食よりも低い温室効果ガス排出量と水利用であった事が示唆されています。

全ての危機的気候・栄養状況に対応できる万能策などなく、全てはそれそれの国内状況・環境によって政策を考えなければいけないと指摘されています。

研究論文によると、高所得国において、植物ベースの食事(ベジタリアン食)の導入を推進し、二酸化炭素排出量を理解する事で、栄養・健康需要や文化的嗜好のバランシングをするための食事推奨・行動変化への熟慮が為される事が望ましいとしています。

しかし、乳製品が温室効果ガスの排出により大きな影響を与える事が判明している一方で、乳製品や卵は健康維持や栄養摂取の観点から非常に重要な役割を果たしている事も同様に示唆されています。

まだ、食物が生産される土地に関しても、例えばパラグアイでの牛肉生産は、デンマークでの牛肉生産の葯17倍もの温室効果ガスを生成する事が調査で明らかになっており、生産地も考慮に入れる必要があります。

更に研究では、特定の食物の生産に関わる文化的背景や嗜好、食料自給率や貿易状況、食物生産の為になされた土地利用における変化など、多岐に渡る要因を調査しする必要がありました。

二酸化炭素排出量と食糧生産の影響への対策を考えた時に、栄養問題や気候変動、淡水枯渇、経済成長等の問題と同様に、非常に複雑で地球全体の問題であり、全ての問題を一度に解決することは不可能である為、国それぞれが、今回の研究結果を解決策の一つとして捉えて、食事のガイドラインなどを含めた国内戦略を考慮するべきである事が指摘されています。

参考文献

Kim, F. B., et al. (2019). Country-specific dietary shifts to mitigate climate and water crises. Global Environmental Change. DOI: 10.1016/j.gloenvcha.2019.05.010