高脂肪食(脂質を多く含んだ食事)は腸と体の間の伝達機能を抑制する事が、ゼブラフィッシュを対象としたDuke Universityの新たな研究によって明らかにされました。

高脂肪食の腸内細胞への影響とインスリン抵抗性への関係性

ゼブラフィッシュ(コイ科の魚)を用いた今回の研究では、通常では食後に脳や他の体の部位に腸内で何が起こっているかを伝達する細胞を調査したところ、高脂肪食を摂取した後の数時間、完全にその伝達機能を断絶した事が発見されました。

研究者が調べた細胞は腸管内分泌細胞と呼ばれるもので、腸管内に点在する細胞ですが、重要な消化管の状態を体に伝達する役割を担っています。

ホルモンを分泌させるだけでなく、近年では、神経システムや脳への直接的な繋がりが発見されています。

腸管内分泌細胞は少なくとも15の異なるホルモンを生成し、腸管運動や満腹感、消化の状態、栄養吸収率、インスリン感受性、エネルギー貯蓄量などについて体へ信号を送ります。

しかしながら、高脂肪の食事をした数時間後の間はこの機能は完全に停止してしまいます。

腸管内分泌細胞は消化や満腹感、更にその後の食行動に対しても影響を与えるため、細胞の機能停止は高脂肪食を摂る事による食事量の増加を引き起こすメカニズムである可能性が示されています。

もしこのメカニズムが高脂肪食の摂取をする度に起こるのであれば、インスリンの信号伝達に変化を及ぼし、インスリン抵抗性の発達と第二型糖尿病の発病を助長する可能性もあります。

アシネトバクターによる細胞の機能停止

細胞の機能停止をより詳細に理解するために、研究者たちはゼブラフィッシュを用いて段階的に全容を調査しました。

腸管内分泌細胞は食事を感知した後に、数秒の間にカルシウムを放出して伝達過程を始めます。しかし開始をした後には食後の期間として遅延効果があり、細胞の機能停止が起こるのはこの遅延効果がある食後の期間であるようです。

機能を停止した細胞は形を変え、新たなタンパク質を形成する構造体である小胞体に対してストレスが加えられます。ホルモンや神経伝達物質などのタンパク質を合成・分泌することに特化した腸管内分泌細胞は、この過程で過剰に刺激され、疲労するようです。

一方、研究チームが細菌の存在しない環境下で育成されたゼブラフィッシュに高脂肪食を与えたところ、細胞の機能停止は起こりませんでした。そこでチームはこのプロセスに関連している腸内細菌をさ探し出しました。

研究チームが発見した細菌はアシネトバクターと呼ばれ、人間の皮膚にも存在する自然界に生息する細菌です。通常の状態では全体の腸内細菌の0.1%にも満たない割合で存在しますが、高脂肪食を食べた後には100倍にも増加し、細胞の機能停止を引き起こす唯一の細菌であることも同様に判明しています。

細胞の機能停止が起こる原因としては脂肪に対する過度の信号伝達を抑制するためである可能性が説明されていますが、完全な理解はされておらず、長期的にどのような影響を体に及ぼすかはわかっていません。

可能性としてはインスリン抵抗性の形成などの代謝機能障害といった悪影響を及ぼすことが指摘されている一方で、腸管細胞を過度の刺激から保護するといった有益性も示唆されています。

研究者は、このアシネトバクターがどのように細胞の機能停止を引き起こしているのか、他に同様の効果を持つ細菌が存在しないかを調査することに意欲を示しています。

参考文献

  • Ye, Lihua., et al. (2019). High fat diet induces microbiota-dependent silencing of enteroendocrine cells. eLife. DOI: 10.7554/eLife.48479