「エリスロポエチン」と聞いてピンとくる方は少ないかもしれませんが、近年になって海外で認知されつつある、ホルモンの一種です。

このホルモンがトレーニングや健康状況に影響を与える可能性が示唆されているため、今回はこのホルモンの働きと、トレーニングとの関係性を紹介していきます。

エリスロポエチンとは

血液中の酸素運搬を担っている赤血球を増やすエリスロポエチン。

エリスロポエチンErythropoietin, 以下EPO)とは、腎臓と肝臓で生産されるホルモンで、赤血球の増殖を促進させる働きがあります。

腎臓で主に生産されているホルモンのため、腎臓に関する病気によって腎臓の機能が弱まってしまうと、EPOが上手く分泌されずに貧血に陥る危険性があります。

ホルモンが赤血球の増殖を規定していることがわかったのが1906年の事です。エリスロポエチンという名前が医療薬学の世界に導入されたのは1948年とごく最近の事で、まだ歴史の浅いホルモンだと言えます[1]。ですから、まだ身体への効果なども研究中である事が示されています。

EPOのトレーニング効果

酸素供給とエネルギー生産

EPOが増殖させた赤血球の役割としては、細胞、体組織への酸素の運搬・供給です。特に運動の際には酸素が細胞の活性化に関わっているため、赤血球の量は運動のパフォーマンスにも密接に関わっています

酸素はは細胞内のミトコンドリアと呼ばれるエネルギー生成器官で、炭水化物や脂質、アミノ酸の分解を促し、アデノシン三リン酸という形でエネルギーの生成が行われます。この過程で、食べ物の含まれているエネルギーを、体内で使えるアデノシン三リン酸という形に変換したのです。このエネルギーが蓄えられた分子であるアデノシン三リン酸が筋肉の収縮を助けるのです。

つまり、より多くの酸素を取り込むことができれば、筋肉はより多くのアデノシン三リン酸の生成を望むことができ、筋肉の収縮が改善されて、結果的に運動パフォーマンス向上に繋がるということです。

ドーピングとしての使用

効果の高いホルモンのために、アスリートの間でドーピング薬としても使用されていたとのことです。EPOのドーピング薬としての使用はアンチドーピング機構によって1990年初頭より禁止されていました[2]。
しかし、2000年のオリンピックまではEPOに対するドーピング検査が行われていませんでした。後になってドーピングを行っていた事を告白する自転車レース選手もいたそうです。

エリスロポエチンを分泌させるには?

実際にパフォーマンスが上がる事を報告している研究結果もある事から([3]、[4])、ドーピングはしたくないですがトレーニングや運動能力には有効活用したいですよね。実は、EPOの分泌を促進させる栄養素が自然界に存在しているので、薬を使わなくてもEPOの効用を得る事はできるのです。

アラキドン酸

アラキドン酸は体内におけるEPOの生産や赤血球に関わる細胞の増殖へと繋がる過程に関与しています。アラキドン酸は他にも体内での様々な機能に関わっています。

EPOの生産は、エイコサノイドという、血液循環に関わっている物質の産出によって行われます。最近の研究では筋合成の効果も認められてきています。

多く含まれる食品:鶏肉、卵、牛肉等のタンパク質

コバルトとビタミンB6・12

人体には微量しか必要とされないコバルトも、同じくEPOや赤血球の生産を刺激する物質です。2006年の研究によると、コバルトはEPOと血管の新生を促進し、結果的に赤血球濃度と循環を上昇させる働きがあることが認められています[5]。

また、コバルトはビタミンB12の構成要素でもあります。そのビタミンB12もまた、赤血球の生成に関わっており、ビタミンB12の欠乏は筋肉の疲労と弱化にもつながる可能性があります。同じように、ビタミンB6もヘモグロビンによる酸素運搬量を増やす効果があります。

多く含まれる食品:貝類(牡蠣など)、魚類、緑黄色野菜

ムラサキバレンギク(エキナセア)

ムラサキバレンギクはアメリカ原産のキク科族の植物ですが、日本ではあまり普及していないので耳にしたことが無い方も多いと思います。この植物もまた、赤血球の成長因子の生成を刺激することで、EPO分泌を促し、血液の酸素運搬能力を向上させます。また、免疫機能の上昇させることでもよく知られています。

Amazonなどの通販サイトではハーブティーとして売られている事が多いようです。

ナイアシン

主要なビタミンの一つであるナイアシンは、血管拡張の特性を持っています。特に細かい循環機能の拡張をし、酸素や栄養、ホルモンを筋肉細胞に送る手助けをします。また、代謝廃棄物の掃除もしてくれます。

多く含まれる食品:マグロ、肉類、アボカド、さつまいも

まとめ

今回はホルモンの一つであるエリスロポエチンを紹介しましたが、理解していただけたでしょうか。要点をまとめると…

・エリスロポエチンは赤血球の増殖を促進させる

エネルギーの供給と筋収縮に関わり、運動パフォーマンスの向上が期待される

アラキドン酸やコバルト、一部のビタミン、ムラサキバレンギクなどにより、自然に分泌を促すことができる

あまり脚光を浴びる事のないホルモンですが、健康促進にも、運動にも欠かせない血液に関係する重要なホルモンなので、知っていて損はすることはないと思うので、是非頭の隅に置いておいて下さい。

では、また。

参考文献

  1. Erythropoietin after a century of research: younger than ever. Retrieved from https://www.ncbi.nlm.nih.gov/ pubmed/17253966
  2. EPO Direction. World Anti-doping Agency. Retrieved from https://www.wada-ama.org/en/questions-answers/epo-detection
  3. Performance-enhancing substances in sports: a review of the literature. Retrieved from https://www.ncbi.nlm. nih.gov/pubmed/25663250
  4. Prolonged administration of recombinant human erythropoietin increases submaximal performance more than maximal aerobic capacity. Retrieved from https:// www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/17668232
  5. Blood doping by cobalt. Should we measure cobalt in athletes? Retrieved from https://www.ncbi.nlm.nih.gov /pmc/articles/PMC1550414/