筋肉を増やすために重要な事の1つがタンパク質を摂る事。もちろん筋肉づくりを行なっている人以外でも非常に大切な栄養素です。

ですが1回の食事で吸収できるタンパク質は30gが限界だ、ということが風の噂で伝わっているようで、心配されているトレーニーやアスリートの方も多いようです。

今回はそんな方の心配を解消するべく、一回のタンパク質の摂取と筋肉の発達に焦点を当ててわかりやすく解説していきます。

記事の要点
  • 一回の摂取で吸収できるタンパク質の量に制限はない!
  • 一回の摂取で筋肉の合成に使われるタンパク質は約20〜40g
  • 1日頻繁にタンパク質を摂取しなくても筋肉の合成に影響はない
  • 一番重要なのは1日のタンパク質総摂取量

一回に吸収できるタンパク質が30gは嘘

嘘、悪い、バッド

一回に吸収できるタンパク質の量は、トレーニングの界隈では『タンパク質は一度に30gまでで、それ以上摂取しても吸収されないから無駄だ』と言われることもよくあるようです。

しかしそれは全くの嘘です。

どのあたりが間違いかというと、「一回に吸収できるタンパク質」という部分が間違っています。

2009年に公表された消化吸収に関して研究した論文では、こう述べられています:

[V]irtually all ingested protein is absorbed by healthy humans.

(Jackson et al, 2009)

訳:健康な人間が摂取したタンパク質は、実質全て吸収される事となる。

つまりこの研究で明確にされているのは、どれだけタンパク質を一度に摂取しても全てのタンパク質は吸収されて人間の体の中で使われるという事です。

極端な話、一回の食事でステーキを2kg食べても、刺身をたらふく食べても、卵を30個一気に流し込んでも、最終的に食事から摂れたタンパク質は全て消化器官で吸収されるという事ですね。

ということで、一回の食事・摂取で吸収できるタンパク質は実質制限がなく、30gしか吸収できないというのは全くの嘘、というのがまとめです。

ですが、多くの人が本当に知りたいのは吸収云々ではなく、一回の摂取でどれだけのタンパク質が筋肉を作るに使われるのか、という事でしょう。これに関してもっと見ていきましょう。

一回に筋肉を作るのに使われるタンパク質は?

疑問?

この質問に関しては多くの意見・研究結果・論文があり、未だに明確に答えが出せない状態です。

2015年の研究では、「摂取されたタンパク質が筋タンパク質合成(=筋肉をつくる作用)に使われる量には限界値がある」とされています(Morton et al, 2015)。

これは1回にタンパク質をどれだけ沢山食べたとしても、筋肉をつくるのに使われるタンパク質は一定の量だけだという事です。

この「一定の量」というのは皆が気にするところだと思います。

2009年にトレーニングの後のタンパク質の摂取に関して比較実験を行った研究では、全ての参加者が足のトレーニングを行った後に①20gの卵からのタンパク質を摂取するグループ②40gの卵からのタンパク質を摂取するグループの二つのグループにおいてそれぞれの筋肉合成の割合を調べました。

結果、20gと40gのグループではほとんど差が無いという結果が出ています。

Moore, 2009. 20gと40gの時の筋肉の合成率がほぼ変わらない事がわかる。

また、他の実験では一回の摂取で30gの牛肉からのタンパク質を摂るグループと90gのタンパク質を摂るグループとを比較した場合でも、筋肉の合成に違いはほとんんど見られなかったとの事です。

更に他の研究では、こんな事も言われています:

The ingestion of a dose of whey protein >20 g results in a diminished return in terms of stimulating myofibrillar MPS and, instead, stimulates amino acid oxidation and ureagenesis.

(Witard et al, 2014)

ここでは、一度に20g以上のタンパク質の摂取はアミノ酸の酸化と尿素の生成(=筋肉を作るのには使われない)を促し、筋肉の合成を刺激するのに最適では無いという事が言われています。

このように、様々な研究で言われているのは、およそ20〜30gがいわゆる一回の食事で筋肉の合成に使われる「一定の量」のタンパク質であるように思えます。この量は最初の「一回でどれだけタンパク質が吸収できるか」の議論で言われていた量と重なりますね。

ただ、タンパク質と筋肉の合成を考える場合、単純に食事からのタンパク質摂取量だけを見て判断する事は難しく、他の多くの要素が関わってきます。

タンパク質が筋合成に使われる量に関わる3つの要素

数字、3

タンパク質が筋肉を作るのに使われる量に関係する主な要素は3つあると考えられます:

  1. 筋肉量(筋肉の大きさ)
  2. トレーニングをする筋肉部位の大きさ
  3. 年齢

1. 個人の筋肉の量・大きさ

筋肉の量・大きさというのは、もちろん個人によって大きく変わります。長年トレーニングをしている人であれば当然筋肉は大きくなるでしょう。つい去年始めた人ならまだまだ発展途上の筋肉量かもしれません。

そのような人それぞれに違う筋肉量によっても、一回に筋肉の合成に使われるタンパク質量というのは変わってくるようです。

2018年に行われたメタアナリシス研究(これまでの研究を再評価して総合的な結論を出す研究)で示されているのは、0.4g〜0.55/kg/1食のタンパク質が筋肉の合成に最適であるという事です。

例えば、体重50kgの人が1回のタンパク質の摂取で筋肉を作るのに最適な量は、50×0.4〜0.55=20〜27.5gとなり、80kgの人であれば80×0.4〜0.55=32〜44gとなります。

この例では、もし80kgの人が50kgの人と同じように1回に20gのタンパク質しか摂取しなかった場合、筋肉の合成に最適な量が摂る事ができていない、ということになりますね。

2.トレーニングをする筋肉の大きさ

体の全体の中でも、筋肉の部位によって大きい、小さいがあります。腕の筋肉と足の筋肉を比べた時に、腕の筋肉の方が大きい、という人はおそらくいないと思います。

大きさが違うために、鍛える筋肉の部位によって、タンパク質の摂取量と筋肉の合成反応が変わってくるのです。

先ほど取り上げた20gと40gの卵のタンパク質の摂取と筋肉の合成を比較した実験は、足のみを鍛えた後の実験を行っていましたが、2016年に行われた研究では、全身のトレーニングをした後にホエイプロテインを20g摂取したグループと40g摂取したグループを比較した場合には40gホエイプロテインを摂取したグループの方がより多くの筋肉合成反応が見られたとの結果がえられています。

Macnaughton, 2016. 40gプロテインを摂取した場合が値筋合成値が高いのが棒グラフからわかる。

この結果から、鍛える筋肉の大きさ・量によっても1回のタンパク質摂取で筋肉を作る最適な量が変わってくるという事が研究によって示されています。

3.年齢

人は年齢を重ねていくと、アナボリックレジスタンス(anabolic resistance)と呼ばれる筋肉同化作用に対する抵抗性ができてくる事が科学の世界ではよく知られています。

つまり、10代や20代の若い人よりも30代や40代といった高い年齢の人の方が筋肉を作りにくくなり、筋肉を作るためのタンパク質がもっと必要になるという事です。


この3要素を考えると、もし年齢が30代、40代という人で筋肉量が非常に多く、1回のトレーニングで全身を鍛えるような人であれば、1食20gや30gといっ量ではなく、40gや50gのタンパク質でも筋肉を作るために使われる可能性があると言えます。

もちろんこの3要素が全てではなく、他にも個人の状況や環境、習慣によって変わるものは多かれ少なかれあると思います。

3つの要素のまとめ
  • 0.4g〜0.55/kg/1食のタンパク質が筋肉の合成に使われる量として最適
  • 鍛える筋肉が大きい・量が多いほど必要なタンパク質の量が多くなる
  • 年齢が高ければ高いほど筋肉の合成に必要なタンパク質も多くなる

1日に少ない回数で食べる(プチ断食)は筋肉を発達させるのに効果的か?

食事・ベジタリアン・野菜

最近日本でもかなり浸透してきたダイエット方法のプチ断食(intermittent fasting、断続的断食とも)では、1日に1・2回しか食事を摂らず、必然的に1回にたくさんのタンパク質を体に取り入れている事になります。

では、1日1回の食事にタンパク質をたくさん摂っても筋肉の発達には影響はないのでしょうか?研究によると、とりあえず問題はないようです。

2009年に行われたプチ断食における人間の代謝を調べた研究では、20時間のプチ断食を行うグループと、1日に4食の通常の食事を摂るグループとに分け、17日間に渡って研究を行いました。

プチ断食グループは平均で101gのタンパク質を一回の食事で摂取し、通常の食事グループは同じタンパク質量を4回の食事で摂取したところ、実験後の筋肉量の維持率に違いはなかった事が判明しています。

また、他の研究ではホエイプロテインの摂取に関して、86gのホエイプロテインを一回で摂取した場合と、3回に分けて摂取(一回あたり30g程度)に分けて摂取した場合とでは、一回で全てのホエイプロテインを摂取したグループの方が、コルチゾール(筋分解を促進するストレスホルモン)の値が下がり、体の組成に改善が見られたという結果を報告しています。

しかし、これらの研究は全て2週間から8週間程度の短期間の影響を調べたもので、長期的な体への影響を調べたものではないので確かなことは言えません。

また、研究で参加している被験者はトレーニングを行って筋肉をつける目的をもって栄養摂取を行なっていないため、1日のタンパク質の総摂取量がかなり少ないのです。

かといってタンパク質を1回でたくさん摂ってしまっても、そのタンパク質が無駄になる訳ではなく、例えば筋肉の分解を抑えるために使われるなど他の用途にも使用されるため、プチ断食は筋肉を作るのに良い方法ではない、とは言えません。

つまるところ、一番大切なのは1日にどの程度タンパク質を摂っているかになります。

大切なことは1日のタンパク質摂取量

1日の食事からの栄養素摂取

1日に摂るタンパク質の量。多くの論文を紹介しましたが、結局これにたどり着きます。

『1日に何回に分けて、1回につきこれだけのタンパク質を摂らなきゃいけない』という心配をするよりも、1日にどれだけタンパク質を摂る必要があるかを考えていれば筋肉の発達に大した影響はない、ということです。

じゃあ、筋肉を作るために1日にどれくらいタンパク質を摂れば良いのか、という疑問も出てきます。

多くの研究論文が発表されており意見が分かれているものの、2g/kg/1日が一番シンプルでわかりやすい指標です。ある程度の筋肉量の人であれば、1kgあたり2g摂っていても十分すぎるくらいです。

筋肉の発達を最大限に高めたいと考えている人であれば、その2g/kg/1日のタンパク質を1日に4〜6回、1回辺り30〜40g程に分けて食べることで筋肉の同化作用を最適化する事ができるでしょう。

一方で、筋肉の維持や健康目的などの人なら、1日のタンパク質摂取量をキープしていれば、プチ断食のような事を行なったり、普通の朝昼夜3食で生活しても問題なく筋肉を保持・成長させる事ができると思います。

研究にはある程度に限界がありますから、結局は自分が目指している目標には何が必要かを考えて食事回数やタンパク質の配分を考えていくと良いでしょう。

まとめ

タンパク質が一回の摂取で30gしか吸収できない、というのが嘘である事がわかりましたね。しかし、1回の摂取で筋肉を作るのに使われるタンパク質はどの位か、という質問に変わった場合は非常に複雑な要素が絡んでくるものです。

とりあえず筋肉の発達には0.4g〜0.55/kg/1食、およそ30〜40gで、1日に4、5回程度に分割するのが最適ではないか、というのが答えですが、それよりも1日に必要なタンパク質量をしっかり摂ることを意識する事が大切、という事覚えておいて欲しいと思います。

参考文献

  1. Jackson, DA and John Maclaughlin. (2009). Digestion and absorption. Surgery. 27(6), 231-236. DOI: 10.1016/j.mpsur.2009.03.003
  2. Morton, WR., et al. (2015). Nutritional interventions to augment resistance training-induced skeletal muscle hypertrophy. Frontiers in Physiology. 6, 245. DOI: 10.3389%2Ffphys.2015.00245
  3. Moore, DR., et al. (2009). Ingested protein dose response of muscle and albumin protein synthesis after resistance exercise in young men. The American Journal of Clinical Nutrition. 89(1), 161-168. DOI: 10.3945/ajcn.2008.26401
  4. Symons, TB., et al. (2009). A moderate serving of high-quality protein maximally stimulates skeletal muscle protein synthesis in young and elderly subjects. Journal of the Academy of Nutrition and Dietetics. 109(9), 1582-6. DOI: 10.1016/j.jada.2009.06.369.
  5. Witard, CO., et al. (2014). Myofibrillar muscle protein synthesis rates subsequent to a meal in response to increasing doses of whey protein at rest and after resistance exercise. The American Journal of Clinical Nutrition. 99(1), 86-95. DOI:  10.3945/ajcn.112.055517
  6. Schoenfeld, BJ and AA Aragon. (2018). How much protein can the body use in a single meal for muscle-building? Implications for daily protein distribution. Journal of International Society of Sports Nutrition. 15, 10. DOI: 10.1186/s12970-018-0215-1
  7. Macnaughton, SL., et al. (2016). The response of muscle protein synthesis following whole‐body resistance exercise is greater following 40 g than 20 g of ingested whey protein. The Physiological Society. 4(15). DOI: 10.14814/phy2.12893
  8. Soeters, RM., et al. (2009). Intermittent fasting does not affect whole-body glucose, lipid, or protein metabolism. The American Journal of Clinical Nutrition. 90(5), 1244-1251. DOI: 10.3945/ajcn.2008.27327
  9. Stote, SK., et al. (2007). A controlled trial of reduced meal frequency without caloric restriction in healthy, normal-weight, middle-aged adults. The American Journal of Clinical Nutrition. 85(4), 981-988. DOI: 10.1093/ajcn/85.4.981