ケトジェニックダイエット(以下ケトジェニック)は最近流行りのダイエット方法になっていますね。(ケトジェニックダイエットは、ダイエットだけではなく高脂質の食事を指す言葉でもあります。)
ローカーボダイエットが長年にわたって支持を得てきましたが、多くの人がこのケトジェニックに乗り換えているのが現状です。
ケトジェニックには多くのメリットもありますが、全ての人にとって最適なダイエットとは限りません。むしろケトジェニックのデメリットを被ってしまう人もいるのです。
ではケトジェニックが人体にに与える影響とは何なのでしょうか?
GABAとグルタミン酸
ケトジェニックはダイエットの手段だけではありません。人によっては、不安や気分変動を減らして、幸福感を増やし、睡眠の質を改善するなどの効果が期待できます。
これらの効果は、神経伝達物質であるグルタミン酸を、GABA(γ-アミノ酪酸)と呼ばれる別の神経伝達物質へと変換する作業を増やす事で起こります。
グルタミン酸をGABAに変換するという事は、グルタミン酸を減らすことになりますね。もしグルタミン酸の値が高いと、次のような症状が見られます:
- 不眠症(過度の興奮)
- 過敏症
- 気分変動(躁鬱症状)
- 社会的不安
- 中毒症状
ケトジェニックは体内のグルタミン酸を減らし、GABAを増やします。GABAが低い状態で起こる症状もリストアップしてみましょう:
- ストレスと社会的不安
- 筋肉のつり
- 不眠症
- 早朝に覚醒(3時に起きて眠れなくなる、等)
- 自己中心的行動
- 慢性的な痛みと頭痛
- 頻繁な排尿
- リラックスできない
- イライラしやすい
- 音への過敏反応
- 耳鳴り
- 恐怖症
- 混乱
- 過食症の発言
このように、高グルタミン酸・低GABAはあまり良くない状態であるのが分かるでしょう。多くの場合、高グルタミン酸は低GABAとともに起こるもので、問題は変換が上手くできていないことにあります。
実は、ケトジェニックダイエットは高グルタミン酸・低GABAの状態を改善してくれます。
ケトジェニックダイエットの脳に対する良い影響
ケトン体(脂質をエネルギーに変える状態にある体:ケトーシス)はグルタミン酸デカルボキシラーゼ酵素と呼ばれる酵素の働きを増やし、それによってグルタミン酸をGABAへと変換する作用を引き起こしています。つまり、体がケトーシスであれば、グルタミン酸は下がりGABAが上がる状態になるという事です。
高グルタミン酸もしくは低GABAの状態にある人は、ケトジェニックに切り替えると非常に気分が良くなるでしょう。勿論、全員がそうなるわけではありませんが、長年苦しんでいた方であれば、新しい自分に生まれ変わったように感じるはずです。
体調や気分の改善はGABAの上昇とグルタミン酸の低下によるものです。
しかし、人によっては全く逆の反応を示すことがあります。すべては個人の脳科学にかかっています。
脳への悪影響
脳の中には、GABAとセロトニンという二つの抑制性神経伝達物質が存在しています。どちらも脳を落ち着け、不安を解消し、リラックスと睡眠を促します。ケトジェニックはGABAを増やしますが、セロトニンを減らします。
セロトニンのレベルがもともと低い人は、ケトジェニックはひどいものに感じるでしょう。不安を増やし、脳のスイッチを切る事ができずに、コルチゾールのレベルも慢性的に上昇していくことになります。
セロトニンとドーパミン
セロトニンは必須アミノ酸の一つであるトリプトファンから作られます。また、気分を上げてくれる神経伝達物質であるドーパミンは、同じくアミノ酸であるチロシンから作られます。
食べるものによって、トリプトファンとチロシンはどちらか一方が優先的に運搬されます。
・タンパク質と炭水化物を多く食べている
→トリプトファンを優先して運搬(セロトニンの分泌向上)
・タンパク質と脂質を多く食べている
→チロシンを優先して運搬(ドーパミンの分泌>セロトニンの分泌)
つまり、ケトジェニック食では、より多くドーパミンが生成され、セロトニンの分泌は低下するという事です。
もし自然にセロトニンを多く分泌できる人ならそれで問題はありません。しかしそうでない人は、不安を感じたり、新しい事に挑戦する欲が無くなったり、集中力の低下や睡眠障害などの問題を抱えるようになってしまう可能性があるのです。
このように、ケトジェニックは不安に対する抗ダイエットにもなり得るし、逆に助長するものにもなり得るという、二律背反の側面を持っているのです。
まとめると:
- ケトジェニックは、低GABAで普通~高いレベルのセロトニン分泌を行う人には良い。
- ケトジェニックは、セロトニン分泌が低いレベルの人には良くない。
ホルモンの作用
ドーパミンを分泌を増やすことでのメリットも、勿論あります。
例えば、トレーニングの前に炭水化物を全く摂らずに、タンパク質と脂質を中心に摂取して、トレーニングの後に炭水化物を初めて摂取する、という方法があります。
この作戦は、ドーパミンとアドレナリンの生成の助けとなり(アドレナリンはドーパミンから作られます)、より多くのエネルギーとやる気が得られ、より良い雰囲気でトレーニングが行う事ができます。
基本的には、ドーパミンをアドレナリンは脳のテンションを上げるのにベストな神経伝達物質だと言えるでしょう。脳のテンションが上がると、思考・反応が速くなり、マインドマッスルコネクションと筋収縮の上昇などが見込めます。
このように、ケトジェニックのような低炭水化物高脂質食は、トレーニングのパフォーマンスを上げる事に繋がる、という事が分かります。しかし、全ての人にはそうは言えません。
もし神経系が過敏な人がケトジェニック食を続けると、常に脳が興奮した状態になり、思考も筋肉も常に緊張した状態が続き、柔軟な思考ができず眠れなくなる、といった状態になってしまいます。
昼間に集中した状態を継続するのは良いですが、夜にはしっかりリラックスし、体力や筋繊維の回復と再補充を行わなければなりません。
その点に関しては炭水化物は優秀です。セロトニンのレベルを引き上げるもしくはコルチゾールの分泌を下げる事によって脳を落ち着けてくれます。
コルチゾールを上手く活用する
ある程度のレベルのトレーニーなら、筋分解ホルモンとしてコルチゾールを知っているでしょう。しかし、コルチゾールは筋肉を分解するだけではなく、体内で重要な役割も担っているのです。
- ノルアドレナリンをアドレナリンへと変換することで体を覚醒させ、集中力を向上させる。
- 心拍数と心臓収縮を増やすことで血流を増やす。
- ブドウ糖や脂肪酸、アミノ酸などの貯蓄エネルギーを動員する。
- 免疫系を阻害することで、他の体内システムへと栄養素を回すことができる
- 血糖値を一定に保つ
脳が活発に働き、神経系が交感神経優位になっている時には、ノルアドレナリンをアドレナリンに変換するためにコルチゾールのレベルが高くなります。
加えて、ケトジェニックでは血糖値はすぐに低下し、コルチゾールのレベルを上昇させる原因になります。
脳をリラックできない傾向にある人は、コルチゾールの分泌が高い状態になりがちであるとも言えます。その場合には、ケトジェニックは状況を悪化させてしまうでしょう。
低炭水化物の食事は、脳の活性化に繋がるという良い一面があります。しかし、炭水化物はトレーニングの後や夜などに摂取することで、有用な場合もあるのです。
ケトジェニックは人によって向き不向きが変わる
これまで述べてきたように、ケトジェニックは人によって向き不向きがあり、ケトジェニックに向いている人には多くの恩恵を受ける事ができるでしょう。ダイエットをする時に脂肪を減らしやすくするだけでなく、炭水化物を減らすだけで空腹を抑える事ができるため、カロリーを低く保つことも簡単です。
アドレナリンとドーパミンの分泌が増える事で交感神経の働きが強まり、空腹を感じにくくします。更に、脂質は消化が遅く、血糖値の上昇も低いため、食欲が湧きにくくなるのです。
しかし、ケトジェニックに向いていない人が高脂質の食事を続けても、筋肉の成長にもダイエットにもあまり良い影響が無いでしょう。
ですから、まずは自分がケトジェニックに向いているかどうかを確かめるべきです。最初に書いたリストや、実践などを参考にし、本当にケトジェニックが自分に合っているのかを冷静に分析しましょう。
まとめ
今回はケトジェニックダイエットに関して話しましたが、ご理解いただけたでしょうか。要点をまとめると…
- 高グルタミン酸と低GABAの人はケトジェニックが向いている。
- 炭水化物とタンパク質を食べるとセロトニンが分泌され、タンパク質と脂質を食べるとドーパミンが分泌される。セロトニンの分泌量が低い人はケトジェニック食は向いていない。
- ケトジェニックはコルチゾールのレベルを上げやすくする。
- 合っている人には、ダイエットや筋肉の成長に効果的。
- ケトジェニックが自分に合っているかどうかを先ず確かめなければならない。
流行に乗ってみるのは良いかもしれません。
しかし、体の不調を感じたり、数週間続けても体重が減らないといった場合は、潔く他のダイエット変えるべきでしょう。
逆に、低脂質高炭水化物ダイエットが上手くいかない人は、ケトジェニックを試してみるのも良いでしょう。個人個人でベストな方法が違う、という事を理解していただきたいです。
では、また。
参考文献
- Paoli, Antonio., et al. (2014). Ketogenic Diet in Neuromuscular and Neurodegenerative Diseases. BioMed Research International.
- Thibaudeau, Christian. (2019). Your Brain On Keto: The Real Reason Dieters Are Obsessed.
- Yudkoff, Marc., et al. (2008). Ketosis and brain handling of glutamate, glutamine, and GABA. Epilepsia. 49(8).