ブラジルのサンパウロ大学の研究者たちは、繊維や内臓系の機能維持の補助や、骨格成熟や線形骨成長を刺激する役割を持つ「成長ホルモン」が、体重が減少している時にエネルギー消費の抑制を行う事を発見した。

レプチンと成長ホルモン

今回、Nuture Communicatons誌で公表された研究では、この数十年で良く知られるようになった成長ホルモンへの新しい解明が成されました。

成長ホルモンの受容体は筋肉や繊維、肝臓、内臓系等の成長器官に多く見られますが、研究者たちは脳にも多くの成長ホルモンが見られることを新たに発見しました。

脳の成長ホルモンは成長同化に関わっているだけでなく、空腹を感じているときや、ダイエットをしている時にエネルギーを節制する(=カロリー消費を抑える)代謝反応にも影響を及ぼすようです。この発見は、何故痩せるのが難しいのかを理解する点において重要な示しとなります。

ここ十年以上にわたって、科学者は落とした体重を維持する事がなぜ難しいのか、また何故簡単に体重が増えてしまうのかを解明しようと試みていました。
これまでレプチンというホルモンがエネルギーの節制を行う主要なホルモンと考えられてきた、という事実があります。

血流のレプチンのレベルは体重の減少に伴って同じように減少することが知られていますが、この事実はダイエットやリバウンドに対して効果的な結果は得られていません。

体重減少の過程は、代謝プロセスとレプチン以外のいくつかのホルモンと関わりがある事が証明されています。今回の研究の中で、体重の減少に反応して、脳内でレプチンと同じような働きを成長ホルモンが行う事が判明しています。

しかし、レプチンのレベルが落ちると、成長ホルモンには逆の働きが起こります。ダイエットは血流の成長ホルモンレベルの上昇を招くのです。

AgRP神経細胞とエネルギー消費

成長ホルモン受容体は、自律神経系の最高中心部である視床下部に位置します。視床下部からの刺激は自律神経系の細胞に影響を与え、筋繊維や血管、心臓の筋肉、分泌腺、腎臓や他の内臓系の円滑な機能性を統制します。

その視床下部の成長ホルモンはAgRP(agouti-related protein or peptide)と呼ばれる神経細胞の集合体を活性化させます。AgRP神経細胞はAgRPの生成を増加させ、結果的に空腹を助長しエネルギー代謝と消費を減少させることになるのです。

AgRPは最も強力な空腹刺激体です。AgRPは、幾兆ほどもある視床下部の神経細胞の中の数千程度ですが、非常に重要な役割を担っているようです。

エネルギーの節制とダイエット

成長ホルモンのAgRP神経へのシグナリングの影響を調べるために、科学者たちはAgRPに関連する成長ホルモンを除去した遺伝子調整マウスを生み出し、通常のマウスとの比較実験を行いました。

様々な実験の中で、60%食事制限をさせた場合のマウス全体のエネルギー消費を計測しました。このことによって、エネルギー欠乏への適応反応の欠落がエネルギーのバランスに影響を及ぼすかどうかを決定づけました。

この実験では、通常のマウスでは食事制限中にエネルギー消費の減少が見られましたが、同じ状況下で、遺伝子調整マウスは一貫してエネルギーバランスが変わらないという結果になりました。

遺伝子調整マウスのエネルギー消費の減少は、食事制限において非常に小さく抑えられていました。結果、遺伝子調整マウスは、大きな脂肪量の減少と、少量の除脂肪減少によってより高い体重減少率を出しました

この研究によって、ダイエットは視床下部の成長ホルモンレベルを上昇させるきっかけとなり、AgRP神経細胞を活性化させ、体重減少をより厳しく、空腹感をより強くすることが判明しました。この機能はレプチンの働きとまさに同じです。

エネルギー節制は生命維持にとって重要なものです。進化の過程で人間はレプチンと、成長ホルモンによってエネルギー節制を行う事ができるようになったのです。

ダイエットや減量の際には少々牙を剥くようです。しかし、ネガティブな側面を逆手にとって、成長ホルモン上昇を筋肉や他の部位の成長に利用することもできます。成長ホルモンと上手に付き合っていくこともダイエット成功の鍵になるでしょう。

参考文献

  1. Fundação de Amparo à Pesquisa do Estado de São Paulo. (2019). Growth hormone acts to prevent weight loss. ScienceDaily. ScienceDaily.
  2. Furigo, C Isadora.,et al. (2019). Growth hormone regulates neuroendocrine responses to weight loss via AgRP neurons. Nature Communications. 10 (1).
  3. Isaksson, O G., et al. (1982). Growth hormone stimulates longitudinal bone growth directly. Science. 216(4551), 1237-1239.
  4. Rudman, Daniel., et al. (1990). Effects of Human Growth Hormone in Men over 60 Years Old. The New England Journal of Medicine. 323, 1-6.