炭水化物を抜くダイエット(低糖質ダイエット)を行っている人は、必ずと言っていいほど、この質問に行き当たります。
しかし、本当のところは炭水化物を夜とるのはダイエットに悪くはないようなのです。研究結果と一緒に見ていきましょう。
炭水化物を夜に摂るのはダイエットに悪い?
結論から言うと、炭水化物を夜食べるのは、ダイエットには全く問題ありません。
ダイエット・フィットネス産業の中では、「夜は一番カロリーを消費しない時間で、その時間に炭水化物を食べると脂肪になりやすい」という意見がよく引き合いに出されます。
しかし、そもそも何故「脂肪になりやすい」と言われるようになったのでしょう?
夜になるともうすぐ寝る時間だから代謝が落ち、朝や昼といったまだ代謝が高い時に炭水化物を摂るのに比べて脂肪として貯蓄されやすい、というのが夜に炭水化物を摂らない派の意見です。
また、インスリンの感受性も夜には下がり、筋肉よりも脂肪の方にグルコースが運ばれやすくなる、というのもよく言われる事です。
代謝が落ちて太りやすくなる?
先ず、代謝が落ちてしまう事に関して見ていきましょう。この理論は確かに合理的に聞こえます。ただベッドで横になっているだけで動かないのですから、勿論日中に比べてカロリーの消費は少ないでしょう。
実際にある研究では、睡眠の最初の半分の時間では、エネルギー消費35%減少した事を報告しています[2]。
しかし、この研究では、レム睡眠に関与して、睡眠の残り半分の時間でエネルギー消費量が大きく上昇したことが示されています。
という事で、睡眠の間の代謝量には浮き沈みがあるということが分かりますね。全体的な影響としてはどうでしょうか。
実は、睡眠中の平均的なエネルギー消費量は、一日の安静代謝率(何もしていない時の代謝量)と変わらない事が研究では述べられています。
更には、運動を導入することで睡眠代謝率を増加させ、脂肪の消費の促進をする効果も見られています。
Zhang教授のグループの研究でも、肥満体型の人に比べて、引き締まった体をしている人は睡眠代謝量が安静代謝率よりもより大きな割合で高い事が判明しているのです。
- 肥満体型→睡眠代謝量<安静代謝率
- 引き締まった体型→睡眠代謝量>>安静代謝率
肥満の人でなければ、実は睡眠時間中に代謝は上がっているのです。
という事で、寝ている間は代謝が下がって炭水化物が脂肪として吸収されやすくなる、という意見は誤りであることがわかりました。しかし、問題は他にもあります。
インスリン感受性が下がる?
次に、インスリンが放出されにくくなるかどうか、の問題です。これについても確かに、研究で証明されていることとして、朝食に比べて血中のグルコース濃度(=血糖値)と血中のインスリンの値はより長い時間高いままだった、との報告があります[1]。
しかし、朝食というのは、夜寝ている間に体が何も摂取していない状態で摂取するものですから、インスリンの感受性が一日で一番高い時でもあります。
では、昼食と夕食を比べるとどうなるでしょうか。実は、昼と夜のインスリン感受性は全く違いが無い事が、先ほどの研究で同じように証明されています。
つまり、夜にインスリン感受性が下がるというより、朝が高いだけ、という良い方が正しいでしょう。
- インスリン感受性の高さ:朝食>>>他の時間
実験による夜の炭水化物の効果
では、実際に行われた実験で、どのような効果が現れたかを見ていきましょう。
Journal of Obesityにて発表された研究では、参加者に二か月のカロリー制限ダイエットを行わせ、その際に統制群と、実験群の二つのグループに分けました。どちらのグループにも同じだけの炭水化物、タンパク質、脂質の配分を与えましたが、炭水化物を食べるタイミングに違いを出しました。
統制群では一日を通して炭水化物を摂らせましたが、実験群では全体の約80%の炭水化物を夜に摂取させました。
さて、結果としては、夜に沢山の炭水化物を摂取した実験群の方が、圧倒的に体脂肪を落としていたのです。更には、実験群の方が満足感を感じ、空腹感が少なかったという報告までされています。
頻繁に食べるよりも空腹は抑えられる
ダイエットをしているや、体づくりを行っている人は、一日に6食等、頻繁に食事を摂っている事が多いでしょう。
小分けにして食べる方法は、実はインスリンを上げたり下げたりすることで、空腹感を感じやすくなるのです。2時間や3時間に一回食べる事で、その空腹を抑えるようとするのですが、実際にはそんなに頻繁に食べる必要もないのです。
炭水化物を一度に多く摂取する事で、インスリン生成が促され、血糖値を安定させる働きが強まります。血糖値が下がる事で空腹を感じるため、安定した血糖値は、空腹を抑える事に繋がります。
反対に、頻繁に炭水化物を摂っていると、グルコースの生成機能が衰退していき、血糖値の維持を外からの糖質摂取に頼り切ってしまうのです。
もしこれから頻繁に炭水化物を摂るのをやめて一日に三食ほどに変えようとするなら、最初の内はグルコースの生成に体が慣れていないので、少し空腹感を感じるかもしれません。
ただ、実験によれば、三か月後や半年後には、圧倒的に満足感をえられ、空腹を感じなくなることが判明しているため、少しの間耐えれば、楽になるでしょう。
ホルモンの分泌とコレステロール
実験群と統制群の間では何が違ったのでしょう。そこには、ホルモンの分泌量の違いがあったと示されています:
- 実験群の方が、アディポネクトンと呼ばれるインスリン感受性を上げ、脂肪燃焼を促すホルモンが多く生成されていた。
- 実験群の方が、レプチン(満腹中枢を刺激するホルモン)のレベルが高かった。
- 加えて、実験群の方がHDL(善玉コレステロール)値が高く、LDL(悪玉コレステロール)値が低かった。
つまり、炭水化物を夜に多く摂ったほうが、脂肪燃焼や満腹感に関わるホルモンの分泌が多く、健康的なコレステロールのレベルを持つことができた、という事です。
結論:炭水化物は夜に食べても良い
実験としては、夜に多く炭水化物を食べる場合と一日に均等に分けて食べる場合を比較しているため、例えば朝に多く食べる場合との比較や、より多くの研究データがあれば、更に良い理解に繋がるかと思われます。
兎にも角にも、「炭水化物を夜に摂取する事は、太る事にも繋がらなければ、ダイエットを遅らせる事もない」という事が少なくとも言えるでしょう。
- 夜に炭水化物を摂る事は、代謝を下げる事にはならない
- インスリン感受性は、夜に特別低いわけではない
- 頻繁に炭水化物を摂るよりも、夜に沢山食べた方がダイエットにも健康にも効果的
- 夜に炭水化物を摂っても太りやすくはならない
参考文献
- Biston, P., et al. (1996). Diurnal variations in cardiovascular function and glucose regulation in normotensive humans. Hypertension.
- Katayose, Y., et al. (2009)Metabolic rate and fuel utilization during sleep assessed by whole-body indirect calorimetry. Metabolism.
- Sofer, S., et al. (2011). Greater weight loss and hormonal changes after 6 months diet with carbohydrates eaten mostly at dinner. Obesity.
- Zhang, K., et al. (2002). Sleeping metabolic rate in relation to body mass index and body composition. International Journal of Obesity and Related Metabolic Disorder