トレーニングとビタミンB
トレーニングをしている方は色々な種類のプリワークアウトサプリメントやBCAA等を試しているかもしれませんが、その中にビタミンB12がよく入っていることがあるかと思います。
よく知られていることかもしれませんが、ビタミンB12の供給源はほとんどが動物性食品かサプリメントで、ビタミンB群はエネルギー生成に重要だと考えている人も多いかもしれません。つまり、ワークアウトの前のビタミンB12の摂取はパワーを生産する手助けとなると思われている事でしょう。
実はこれは事実ではない可能性が高く、代わりにビタミンB12が他の側面でトレーニングに役立ってくれる可能性があります。
ビタミンB12の事実と迷信
事実
○エネルギー生成に重要である
○血液、神経、脳の健康を改善する
○(まだ根拠が足りないが)プリワークアウトとして摂取した場合にたんぱく合成を促進する
迷信
✕推奨摂取量を超えて摂取するともっと良い事がある
✕プリワークアウト内のビタミンB12はエネルギ―を高く保つ
✕アスリートは普通の人よりビタミンB12が多く必要である
✕毎日ビタミンB12の推奨摂取量を摂らなければいけない
ビタミンB12の役割とは?
ビタミンB12を十分に摂らなかった場合、まず体全体の機能が弱まり、手足の痺れや疼き、記憶喪失や認知機能低下、睡眠障害など様々な病状が進行していきます。ただ、足りなくなったビタミンB12を再度補充してあげれば、症状は改善されるのでその点は安心です。
ビタミンB12はエネルギー生産やアミノ酸・DNAの合成、血液細胞の構築、そして脳・神経細胞の機能など、多くの体内のプロセスにおいて役割を持っています。このビタミンを十分摂っていれば、心疾患のリスクを減らしたり、一部のがん細胞への転化なども防ぐことに繋がります。
長期的な目で見れば健康に良いことはわかります。しかしトレーニングとの関連性はどうでしょう。
ビタミンB12が足りない状態であると、トレーニングにのパフォーマンスに影響します。しかしながら、ビタミンB12を摂るという行為はエネルギーを供給してくれるものではなく、マイナスの状態からゼロの状態、つまり正常なエネルギー値に戻す働きをするだけなのです。
ビタミンをより沢山摂っていてパフォーマンスが向上している人は、単純に元々ビタミンの量が基準量に達していなかった、というわけです。
また、アスリートは一般の人よりも多くビタミンB群を摂るべきだという指摘がありますが、アスリートは大抵アスリートより多くのカロリーを摂り、結果より多くの栄養素を食事から摂取できているわけです。つまり、サプリメントからの大量のビタミン補給は必要ではない場合が多いという事です。
筋肉の合成・分解については?
トレーニング前後では、タンパク質の合成が行われるのと同時に分解も行われているためビタミンB12の摂取量を増やすべきだと考える人もいます。
これはトレーニーの皆さんがBCAAのサプリメントをトレーニング中に摂取する理由でもあります。タンパク質の合成を促進させ、タンパク質分解を遅延させることでタンパク質の蓄積へと繋げる行為です。
ビタミンB12は体内で生成できず、アミノ酸であるメチオニンの生成に要求されるため、タンパク合成の増加に伴って要求量も増えるためにBCAAにもよくB12は入っているわけです。しかしながら、B12を十分な量摂っている人の体内では、B12の体内レベルがタンパク合成に関連していることはまだ証明されていません。
BCAAの中に何故ビタミンB12が?と気になっていた方は、おそらくこれが理由であると考えられます。しかし、これだけがプリワークアウトとしてB12を摂る理由だと断定するには、根拠が十分ではないという事です。
ビタミンB12 の摂取量
おそらく皆さんが思っている以上に少ないでしょう。
The National Institute of Healthによれば、14歳以上の人は一日に2.4mcg(マイクログラム)摂る事を推奨しており、妊娠している場合や哺乳期の場合は少し高めでそれぞれ2.6mcgと2.8mcg薦められます。
ビタミンB12は、一部のコショウソウなどの例外を除き、ほとんどの場合、動物性食品に含まれています。一番良い摂取ソースは貝類(一食85g中に84mcg含有)とレバー(一食85g中に70mcg含有)です。他にも、魚の中では、サーモン(一食85g中に4.8mcg含有)やマグロ(一食85g中に2.5mcg含有)が多く、卵(6個中に3.6mcg含有)や牛肉(一食85g中に2.4mcg含有)、牛乳(一杯240㎎中に2.4mcg含有)などそれなりに多く含まれている食品は様々です。
日ごろから動物性食品を十分に摂ってさえいれば、ビタミンB12が足りなくなるという事はなさそうです。Mayo Clinicによれば、動物が肝臓にビタミンB12等の栄養をため込むのと同じように、人間も肝臓に何年分ものB12を貯蓄しているとの事なので、足りなくなる、という事は非常に稀となります。
だからといって、ビタミンB12を気にしなくても良いという事ではありません。特に、年齢や胃腸の問題などの要因から、ビタミンB12の吸収に影響が及ぼされている可能性もあります(例えば年齢に従ってB12の吸収量は落ちていく)。それでも、少なくとも多岐にわたったバランスの良い食事を摂れているなら、B12の注意優先度は高くなくても良いでしょう。
結論
誰もがサプリメントからの摂取が必要ではない、というわけではありません。ビタミンやミネラルの量を調節するのは非常に難しく、不便で時間がかかることにもなります。
しかし、おそらくビタミンB12よりも重要で、摂るのが難しい栄養素もあります。複数の研究によるれば、60歳を超えるとビタミンB12の体内レベルが低くなる傾向があるようですが、たった6%の人が欠乏しているようです。それと比べ、アメリカ人の半分がビタミンDとマグネシウムの欠乏症にあることを鑑みると、他の栄養素にも目を向ける必要がある事はよくわかると思います。
ビタミンB12のサプリメントを摂る際にも注意は必要です。The Journal of Clinical Oncologyによって公表された研究では、長期間B12を55g(推奨日摂取量の20倍)かそれ以上摂ることで、肺がんのリスクを高める可能性を示唆しています。
摂取量のリスクについてはまだ研究が進行している段階で明確に危険があるとは言えませんが、少なくとも必要以上にたくさんビタミンB12を摂る必要は無いという事は確かです。一日の推奨量をしっかり守っていれば十分ということを覚えておきましょう。
参考文献
- Fenech M. (2012). Folate (vitamin B9) and vitamin B12 and their function in the maintenance of nuclear and mitochondrial genome integrity. Science Direct. 733, 2-33.