脳由来神経栄養因子(BDNF)は、筋肉の中でトレーニングにおいて遅筋繊維を速筋繊維に変換させる役割を持っています。
今回行われた研究では、この因子は筋繊維から放出され、筋肉・シナプスどちらの細胞でも働くことが結果として報告されています。加齢による筋委縮を抑える役割も同じように示されています。
- 脳由来神経栄養因子(BDNF)は、遅筋繊維を速筋繊維に変換する役割がある。
- 筋肉と神経を繋ぐシナプスにも影響をする。
- 年齢に関係する筋委縮に関連している可能性がある。
脳由来神経栄養因子(BDNF)の働きとトレーニング
より多くの人がジムに出入りするようになって、フィットネス・筋力トレーニングは流行の波にあります。
しかし、筋力トレーニングの際、筋肉の中ではどのような事が起こっているのでしょうか。
今回、スイスのバーゼル大学で行われた研究は、マイオカインと呼ばれる、筋肉から発生するタンパク質の一種である脳由来神経栄養因子(brain-derived neurotrophic factor、以下BDNF)に焦点を当てています。BDNFは速筋繊維の形成において非常に重要な働きをすることで知られる因子です。
研究が示すところによると、BDNFは、筋繊維から生成され神経筋肉シナプス細胞(筋肉と運動の神経をつなぐ神経回路)を再形成をします。その際に起こるのが速筋繊維の発達ですが、BDNFは遅筋繊維にも働きかけ、遅筋繊維の数を減らす役割も持っている事が研究で明らかになっています。
BDNFは筋肉とシナプスで働く
通常では、筋肉は遅筋と速筋に分けられ、遅筋は持久力に関係する筋繊維の集合体で、主にマラソン等の持久性の高い運動によって発達が促されます。
詳しい研究があまり成されていないのがもう一つ速筋と呼ばれる瞬発的な力に関わる筋繊維です。
筋力トレーニング等の瞬発的な力を必要とする運動では主にこの筋繊維のボリュームが増し、筋肉の大きな瞬間的パワーを引き出せるようになります。
研究では、マウスのモデルを使用し、筋肉の収縮の際に放出されるマイオカインに注目し、そこから発生するBDNFを調査する事でBDNFの筋肉の影響だけでなく、神経と筋肉を繋ぐシナプスにも影響を与える事を明確にしました。
遅筋の変換と筋委縮の抑制
筋力トレーニング中の神経筋肉シナプスの再構築によって、体内の速筋繊維の発達が引き起こされますが、それと同時に遅筋繊維を速筋繊維に変えるプロセスも行われるようです。
持久力に関わる筋繊維が筋力トレーニング中に減少する説明として可能性が高い答えが得られため、このBDNFと遅筋の相関関係は、例えばカヌーなどの瞬発力と持久力を両方使うようなスポーツでは、特に考慮されるべきであると研究チームは考えています。
更に、続いて行われた研究の中では、BDNFが無い筋繊維において、加齢に関係する筋肉量の減少と機能の低下が見られています。この研究結果は、高齢者における筋委縮への治療に繋がる事が示唆されています。
参考文献
- Delezie, Julien., at al. (2019). BDNF is a mediator of glycolytic fiber-type specification in mouse skeletal muscle. Proceedings of the National Academy of Sciences. DOI: 10.1073/pnas.1900544116