人間の体の中には、多くの神経伝達物質と呼ばれる情報を脳や他の器官に伝える役割を担う物質が存在しています。
その中にはドーパミンやセロトニン、アドレナリン、ノルアドレナリンなどのよく知られている物質も含まれていますが、今回紹介するアセチルコリンは比較的マイナーな物質です。
このアセチルコリンがトレーニングを行う上でどのような働きをするのかを解説していきます。
アセチルコリンの主な働きとトレーニングへの影響
人間の体の中で全ての神経伝達物質は重要な役割を果たしていますが、アセチルコリンは運動選手やトレーニングを行なっている人にとっては一番重要なものの一つです。野球選手でもラグビー選手でも重量上げの選手でも、ボディビルダーでもアセチルコリンは大事です。
- 運動学習の効率を高めてくれる
- 筋力と筋発揮の最適化に貢献する
- 反射運動を強化して力とスピードを上げる
アセチルコリンは知識の保管に深く関わっていて、知覚学習と運動学習(運動など動作を伴う学習)を行う上で重要な役割を果たします。
アセチルコリンの値が高い人ほど学習効率が高く、学習記憶を保持しやすく、その記憶を使う事に長けているため、運動においても新たな動作を学習してその動作を利用する事がより簡単に行う事ができるのです。
アセチルコリンは筋力・筋発揮にも関係しています。
アセチルコリンは神経筋接合部と呼ばれる、神経と筋肉を結を結んで筋肉を活性化させる部分に直接働きかけ、神経からの信号を筋肉に伝えます。
つまり、アセチルコリンの値が高ければ高いほど筋肉のコントロールがしやすく、筋肉の収縮強度も高まる事になるのです。
筋肉が進展された時の反射運動の能力も強まるため、筋肉が伸ばされた時に筋肉に余計な負荷がかかる事なく、怪我の予防にも繋がります。
この反射運動の強化は力とスピードの生成にも貢献し、例えばスクワットを行う時など、力が加わる向きを変える場合に筋肉を素早く収縮して反射を行う能力を強化してくれます。
トレーニングだけでなく、アセチルコリンはあらゆるスポーツにおける素早さや敏捷性を引き上げてくれる効果を持っています。
脳への影響とアドレナリンコントロール
アセチルコリンは創造力にも影響します。アセチルコリンの値が高い人は他の人とは違う考え方をする事ができたり、新しい事に挑戦する意欲が高い傾向にあります。
これは、アセチルコリンが脳内で機能する事で保管されている記憶同士をより素早く結びつけ、新しい解決策やアイディアを考えつく手助けをするためであると考えられています。
アセチルコリンは他の神経伝達物質からのメッセージの伝達をスピードアップさせる事で神経伝達物質の働きをより効果的なものにする役割もあり、神経伝達物質の働きが効率的になる事で脳内・体内での情報伝達もより速く、効率良くなります。
アセチルコリンは興奮物質であるアドレナリンの余分な生成も抑制します。この2つの神経伝達物質は、心臓や筋肉の収縮力に対する役割を同じくしているため、アセチルコリンが高い値であればアドレナリンの放出は最小限に抑える事ができるのです。
アドレナリンの放出がコントロールされる事で3つのメリットがあります:
- ベータドレナリンの感受性を改善してモチベーションの維持を助ける
- ドーパミンとノルアドレナリンを保護してやる気の維持に貢献する
- 神経疲労を改善して体と脳をリラックスさせる
ベータアドレナリンの感受性を改善
もしアドレナリンを頻繁に放出しすぎると、ベータアドレナリンの受容体の感受性が減少してしまう可能性があります。
その事により、ベータアドレナリンの受容体がアドレナリンに反応しなくなり、モチベーションの低下、筋力の減少、パフォーマンス低下、思考力と自信の下降などの症状を引き起こします。
ドーパミンとノルアドレナリンを保護
ドーパミンとノルアドレナリンはアドレナリンの前駆体で、アドレナリンが生成される時に減っていく物質です。
アドレナリンを多く放出すればするほど、ドーパミンたノルアドレナリンの値は減少し、それに伴って集中力・モチベーションの低下や回復力の低減が起きます。
アセチルコリンはアドレナリンの過剰な生成を防ぐ事でドーパミンやノルアドレナリンを保護し、やる気の保持に貢献してくれるという事です。
中枢神経性疲労の改善とリラックス効果
中枢神経系は感情や感覚を司る神経系ですが、この中枢神経系がうまく働いていないとモチベーションの低下や筋肉の収縮率の低下、パフォーマンス欠乏など多くの悪影響を運動・トレーニングに及ぼします。
アドレナリンは中枢神経系を刺激してモチベーションの向上や筋収縮率の増加を行う大切な役割を担っていますが、もしその効果が過度になってしまうと、筋肉の硬直や神経過敏になり、身体的にも精神的にも良い影響を与えません。
アセチルコリンはこのようなアドレナリンの過剰放出を防ぎ、中枢神経の働きを最適化させます。
また、アドレナリンの過度な生成を防ぐ事でリラックスしやすくなり、睡眠の質が改善される事にも繋がります。
中枢神経性疲労とその原因
中枢神経疲労という言葉が出てきましたが、神経が疲労している状態が続くと体に悪影響が出てきます。症状の例としては:
- モチベーションの減少
- エネルギー不足
- 集中力低下
- アンヘドニア(楽しさ・うれしさの欠乏)
- パフォーマンス低下
- 回復力の低減
中枢神経性疲労の主な原因は3つあります:
- ドーパミン・ノルアドレナリン欠乏
- ドーパミン受容体の感受性低下
- 脳内炎症
ドーパミン・ノルアドレナリン欠乏
もし常にストレスを感じていてアドレナリンを恒常的に放出している人であれば、アドレナリンを作るためにドーパミンやノルアドレナリンが欠乏している可能性があります。
ストレスを感じる事でコルチゾールが分泌され、コルチゾールが放出されるほどアドレナリンが生成されます。
過剰なストレス→コルチゾール分泌→アドレナリン生成→ドーパミン・ノルアドレナリン減少
という過程でドーパミン・ノルアドレナリン欠乏の道筋ができてしまいます。
ドーパミン受容体の感受性低下
もしドーパミンの受容体を刺激し過ぎている場合であれば、ドーパミンへの反応が鈍くなり、ドーパミンを体で受け付ける事ができなくなることでドーパミンの活動レベルが低下します。
ドーパミンの受容体の感受性が低下する原因としては、受容体に対して非常に強い影響を与える物質の取り過ぎです。その物質の中にはニコチンや麻薬、コカイン、メタンフェタミンなどを含見ます。
脳内炎症
ストレスなどの過度に神経を刺激する状態が長く続くと、脳内で炎症が起きます。
脳内で炎症が起きていると、不安を感じたりうつ病のような症状を助長したりと、精神的な症状を引き起こす可能性があります。うつ病でなくとも少なからず気分が上がらなかったり、やる気が起きなかったりと悪影響が必ず出てきます。
中枢神経系の疲労が起こる根本の原因は、コルチゾールの過剰分泌によるアドレナリンの過剰生成です。
アセチルコリンはストレスを感じ過ぎないように体をリラックスさせ、睡眠の質を上げる効果を引き出すとともにアドレナリンの過剰分泌を抑制するなどの役割を担うため、このような神経伝達物質のコントロール・神経系の最適化に適しているのです。
まとめ
アセチルコリンは普段は記憶能力の改善や学習能力の最適化を話す時に引き合いに出されますが、運動やトレーニング、日常生活の場面でも非常に重要な働きをしている事がわかっていただけたかと思います。
アセチルコリンを自然に増やす方法はまだ発見されていませんが、サプリメントなどからコリンを摂取する事で分泌を促す事ができる可能性が示唆されています。
食事からコリンを摂取する場合は卵、レバー、ピーナッツなど、もしくは他の肉・魚類にも多く含まれている事が報告されています。