テキサス大学オースティン校の研究者による新しい研究の結果、テストステロンのサプリメントの摂取によってより道徳基準に敏感になる事が明らかになり、テストステロンの行動への影響はより複雑なものである事が示唆されています。

テストステロン値と道徳的行動の複雑な関連性

トロッコ問題
トロッコ問題の図:5人を救うか1人を犠牲にするか

これまで行われてきたいくつかの研究では、高いテストステロン値と非道徳的行動とを関連付けてきましたが、道徳的判断の基準としたのは行動反応と脳内アクティビティによるものでした。

今回行われた研究は、ホルモン基盤の道徳的理由付けを調査するべく、根幹にある生物学的要因、特にテストステロンの役割について解析を薦めました。

研究では哲学者の範例であるトロッコ問題がテストステロンの道徳的判断の実験として借用しました。

トロッコ問題とは、暴走したトロッコのレール上の5人を見殺しにするか、レバーを自ら引いて一人の命と引き換えに5人を助けるかを選択する問題で、道徳規範と功利主義的観点の査定を行うときなどに使われる哲学問題です。

実験では、トロッコ問題の代わりに日常生活での出来事に当てはめた24のジレンマを使用し、功利主義的な最大幸福(より多くの人々を救う)の選択か、義務論的な道徳規範(誰かに害を与えるのを避ける)の選択化を問いました。

以前の研究では高いテストステロン値は功利主義的選択と結びつけられたため、今回の研究でも同じ推論を立てたうえで、100人のテストステロン実験グループとプラシーボ群100人を参加者として募り、研究を行いました。

その結果、前回の結果とは違い、テストステロンサプリメントを与えたグループは、功利主義的な選択よりも道徳規範への高い感受性をを示しました

しかし、自然のテストステロン値が高い個人は功利主義的な選択を行う傾向にあり、逆の結果が導き出されています。

研究者はこの違いを、個人のパーソナリティに基づいた特質によってテストステロンのレベルは違うため、自然のテストステロン値ははある道徳的判断と関係が深いのだと考えています。

例えば、精神病質(psychopathy)の値が高いとテストステロンのレベルは高く、道徳規範への感受性は低い傾向に見られますが、テストステロンのレベルが要因となって起こることではありません。

研究者は、人間の行動における神経内分泌的決定要因への研究を行う場合の因果関係と相関関係との区別を行う事の重要性が今回の相反した研究結果から反映されると指摘しています。

参考文献

  • Brannon, MS., et al. (2019). Exogenous testosterone increases sensitivity to moral norms in moral dilemma judgements. Nature Human Behaviour. DOI: 10.1038/s41562-019-0641-3