ニューヨーク州立大学バッファロー校によって公表された研究は、高い濃度の血中高密度リポ蛋白質(HDL)、もしくは善玉コレステロールが、多発性硬化症患者の疲労を改善した事を示唆しています。
コレステロール値の改善は多発性硬化症の疲労軽減に繋がる
多発性硬化症によって起こる血中脂肪値が疲労に与える影響を調べたパイロットスタディ(本試験の前に行う予備試験)によって、全体的なコレステロール値の低下は疲労を軽減させる効果がある事を発見しています。
多発性硬化症とは…
中枢性脱髄疾患の一つで、神経のミエリン鞘が破壊され脳、脊髄、視神経などに病変が起こり、多様な神経症状が再発と寛解を繰り返す疾患で、日本では特定疾患に認定されている指定難病である。
Wikipediaより
研究結果は、食事内容の変化が多発性硬化症患者において疲労を改善する可能性がある事を強調しています。
疲労は多発性硬化症患者にとって、クオリティオブライフと仕事のパフォーマンスを低下させる非常に一般的な症状であり、現在処置方法としての選択肢は限られており、使われる薬は多くの場合副作用を含んでいます。
これまでに行われてきた研究では、運動・ストレス低減・神経筋電気刺激療法に伴う食事ベースの処置が、疲労抑制に効果的である事が報告されています。しかし、処置の裏にある心理的変化は判明しないままでした。
今回の研究では、一年の期間に渡って18人の先進性多発性硬化症患者に、Walhsダイエット(果物と野菜中心の食事)による食生活を行わせました。
Walhsダイエットでは肉類や植物タンパク質、フィッシュオイル、ビタミンB群の摂取を促され、グルテンや乳製品・卵などは食事から除かれました。
参加者はホームベース・エクササイズ(主に家で行う運動)のプログラムにも参加し、ストレッチと筋力トレーニングを行う間に神経筋電気刺激療法を用いて筋肉の収縮と動きをサポートし、ストレス低減の方法として瞑想とマッサージも取り入れました。
しかし、疲労軽減の主な要因としては食事内容の順守によるものであったことが明らかにされています。
結果として現れた高HDL値の疲労軽減効果は、善玉コレステロールが糖(グルコース)の取り込みの刺激、そして身体能力と筋力の改善に繋がる細胞呼吸の増加に関わっているためであると考えられています。
実験期間内に測定されていた参加者の摂取カロリーは平均よりも少なく、BMI値とトリグリセライド濃度、LDL値の低減が見られましたが、疲労とは関係が無いとされています。
今回の研究結果は、代謝機能の変化が疲労に与える影響を調査するより大きな研究の基盤になる事が期待されています。
参考文献
- Maxwell, FK., et al. (2019). Lipid profile is associated with decreased fatigue in individuals with progressive multiple sclerosis following a diet-based intervention: Results from a pilot study. PLOS ONE. DOI: 10.1371/journal.pone.0218075